Botom line, botom job. -21ページ目

Botom line, botom job.

結局のところ、底辺職。

二十歳を過ぎた頃。

最低限の着替えを詰めたリュックと標準レンズを着けたCanonを肩に、

ありったけのお金で買ったコダクローム(ポジフィルム)を持って雨の夜、飛行機に乗った。

三日後の朝、ゴビ砂漠の地平線まで続く直線を砂ぼこりにまみれて走るバスに居た。

ら、

 

バスぼっこれた。

 

オアシスと言うんだろうか、砂漠の中の名前も知らぬ(聞いたけど覚えてない)小さな町でバスが直るのを待つ。

どこの国でも田舎の人は親切で(そうか?)食堂に入ると「これでもかこれでもかさあ食えどんどん食えちょっと残せ(食堂の人の為に)」大量の『ほんとにもの凄く美味しい料理(だけどどれもが青椒肉絲みたいな。肉と野菜を油で強火で炒めた)』を出してくれた。冷蔵と言う習慣がないのでぬるいビールも飲ませてくれた。

食事が終わってもバスが直る気配はない。仕方なく小さな町を散歩する。どこの角にも家の前にも、そう言やさっき食堂のトイレの窓の外にもあったな。背の高い硬い朝顔みたいな花。赤、黄、ピンク・・色とりどりで砂漠の強い陽射しの中、そこら中に咲いてる。

 

その花が立葵(たちあおい)と言うのだと先週知った。

近所のファミマの角に咲いてたから。

 

 

 

「どういう形であれ、元気なお父様を見れるのは今が最後です」

 

(これを元気と言うのならばね)

 

「家族の方がびっくりされるくらいぼんやりとしてしまいます」

「覇気がないと言いますか」

 

(ですか)

 

「痴呆を直す薬は存在しません」

 

(な、こたぁわかってら)

 

「破壊や暴力を抑える為、ぼんやりさせる薬を飲ませます」

「ご飯を自分で食べられる程度ギリギリまで脳の働きを抑えます」

「ですが効き過ぎると食事が取れなくなり誤嚥(ごえん=飲み込めないこと)を起こし肺炎になってしまいます」

「誤嚥性肺炎で亡くなる方は多いです」

「そのリスクを承知してください」

 

 

精神科のお医者さんが丁寧に時間を掛けて説明してくれる。

これはきっと「もうお父さんは治らないのね」「ヨヨヨヨヨ・・」と泣き崩れる家族も居るからだろう。後で『ぼんやり父さん』を見て、文句を言う家族も居るのかも知れない。

 

うっちはねぇ・・

 

気にしない。ちゅうか、全然構わない。

 

このままで皆さんにご迷惑をお掛けするくらいなら薬で抑えて頂いた方が。

全て先生にお任せします。

と俺。

 

「ではこちらの延命処置に関するご希望を記入頂いてサインをお願いします」

 

書類を姉さんに渡して、姉「さらさらさら〜」と記入、サイン。

先生に戻す。

 

「あ。」

「っと」

「この『酸素吸入』だけは『する』に丸してください死んじゃいますから」

 

あ。

そなんですか。

あはあはあは。

 

 

 

正しいことをしてるとは思ってない。

けれど、

他に選択肢がない。

好き嫌いは置いといて、元気だった親父が、正月まで会話が成立してた(所々おかしかったけど)親父が、

半年でここまで壊れて、誰の手にも余るようになった。

家族でもどうにも出来ない。

置き去りにする、見捨てるような罪悪感はある。

きっと姉さんにもあるだろう。

でもね、

他に方法がないんだよ。

最善ではないよ。

でもね、

記憶の中にある親父はもう壊れてしまって居ない。

 

 

 

駅からバスに乗って、

確か30分近く乗った気がする。

降りた停留所は、かつて新興住宅地として開発された昭和の街並み。

川沿いの道を少し歩くとコンクリート4階建ての古びた病院。

入り口を入ると左に受付と待合室、うろ覚えだけど確か六角形だったような。入り口の右に長い廊下、手前左に手術室、その向こうにずらっと並んだ診察室。

案内表示や掲示物でここが精神科の病院だとわかる。

 

そうだここ。

突き当たりの通用口から出るようになっていて、その通用口脇の窓枠に『壺に入った塩』が置いてあった。

そうだ。

ここだ。

 

コロナ全盛の頃、準医療従事者として優先的にワクチン接種を受けられた。

そうだ。

ここにワクチン打ちに来たんだ。

1回目はバスで。

帰りに具合悪くなって駅の近くでゆっくりお茶飲んだ。

翌日TOCOTの納車だったんだ。副反応でキツかっただろうに無理をさせた。

2回目はTOCOT? 覚えてない。

けれど、

あの頃は、

待合室のソファで隣に寄り添ってくれる人が居て、体温が感じられて、俺が気遣うべき人が居た。

あの頃の俺が酷く嫌なやつだったとしても。

 

 

どうしてこんなことが起きるんだろう?

家から遠く離れているのに。

例えそれが偶然であったとしても、明らかに偶然なのだけど、

自分の運命(?)に悪意を感じる。

それは雲のずっと上に居るかも知れない偉そうなやつが、

「強く在れ」と言ってるのか、

「反省が足りない」と戒めてるのか。

 

 

 

 

「施設から、入院して投薬により穏やかに過ごせるよう治療をお願いされました」

と、

病院から電話。

 

mmmmmmmmm・・・・

 

もうさ、

施設も嫌になっちゃってんだよね。

・破壊行為(居室の備品、介護用具、車イスを破壊)

・不潔行為(粗相したおむつを千切って部屋中に撒き散らす)

・暴力行為(介護士、看護師が体に触れると腕を捻り上げる)

だからさ、

遠回しに、

「うちじゃあもう面倒見れません」

てことだと。

「穏やかになったら戻って来ていいよ」

て。

 

入院させて薬物治療で親父を大人しくさせるのは大賛成。

とっととやってくれぃ。

なんだけど、

病院の話を聞くと、

「最短で3ヶ月、場合によってはそれ以上」(えぇーっ)

「4人部屋にしますか?2人部屋、個室もございますが」(座敷牢にでも入れといて。嘘、大部屋限定で)

「面会は予約制で平日2時間のうちの20分のみです」(行かないからいいです)

「他の患者さんと隔離して部屋に鍵を掛ける都合がありまして」(は?)

 

え?

精神病院?

今そういう言い方しないのか。神経内科だっけ?

うあ。

とーちゃんとうとうせいしんびょういん?!

あらま。

そこまで来たか。そりゃそうだろな。

え。

じゃあさ、退院するまで最短3ヶ月施設居住費と入院費、両方払うの?

まじか。

 

 

どうして迷惑を掛け続けるんだろう?

そうまでして生きてるんだろう?

早く死んでくれよ。

頼むから。

 

俺の半分がそのDNAだと思うと気が滅入る。

 

 

介護休暇を貰って、親父と姉の乗る介護タクシーの後をTOCOTで着いて行く。

・2:23 AM / しゃろう

・魔法にかけられて / Saucy Dog

・Galway girl / Ed Sheeran

・宿命 / Official 髭男 dism

・Pretender / Official 髭男 dism

・Uptown funk / Mark Ronson

・曇天 / DOES

・Locked out of heaven / Bruno Mars

・香水 / 瑛人

とかとかなどなど・・

俺が今まで師匠(ギ)のとこでコピーした曲を聴きながら。

たっくさん色んなことあったなぁ・・・・でもないか。

とーいなぁ。どこまで行くんだろう?

 

 

あ。

 

え、

 

ここ・・