早い風に雲が流れた。
「ぱあっ」と陽が射してジリジリと肌を灼く。
今なら撮れる。
視界の端っこに次の雲。
10分、いや5分かこの晴れ間。
片付けた機材を大急ぎで出してシャッターを切る。
これもう1カット行けるんじゃない?
諦めて駐車場に戻ったクライアントを追い駆けて砂利の上り坂を100mは走っただろうか。ゆっくり歩くクライアントとディレクターの背中が見える。
のに、
はぁ。はぁ。はぁ。
あぁ。はぁ。はぁ。
ここ。はぁ。そうだ。
いくら俺が毎日、全力100本ダッシュをしていても、
いくら俺が肺活量で、全国男子高校生平均を凌駕していても、
肺と心臓が常人より大きくても(ちんこはたいしたことないの)
ここ。
標高2500m超えてんだ。
さ、酸素薄い・・し気圧低い・・苦しい・・・
息が出来ないしゃがみ込みたい。
しゃがみ込んだら立ち上がれない(のが人生だ)
ゆっくり一歩一歩、急な坂を上って駐車場のアルファードへよたよた。
「kenさんさっき一瞬晴れましたよね」
(だからさ・・)
苦しくて無言でCanonのディスプレイ見せる。
「おーっ」
「kenさん、どんな条件でも天気でも取り敢えず形にしちゃいますよね」
(しちゃだめなのかよ?)
(それが俺の仕事だろがよ)
「他のカメラマンさんだったら「無理です」で俺達も諦めちゃいます」
正確に言うと俺もうカメラマンではないからね。褒めてくれんのは悪い気しないけどね。
それよりもね、
明日出勤だよ仕事だよ。
頑張っちゃってるからなぁ。
キツイなー
休みたいな。
休んで撮影来てるのに休めるわきゃないわな。
「外にある6台の車のナンバーを言える。ウェイトレスは左利きで、カウンターに座ってる男は体重98キロで格闘術を身につけてる。銃を手に入れたかったら、外に停めてあるタクシーかグレーのトラックにある。この高度なら800メートルを全力で走れる。どうしてこんなことが分かる?どうやってわかるんだ?俺はいったい何者なんだ?」
(Bourne Identity)