ルビコン川を渡る、 “禁を犯した カエサルの決断”
歴史の中の「逆境を跳ね返した決断」:ユリウス・カエサル
ガリア征服を成し遂げたカエサルの国民的人気を重々承知していたポンペイウスは、元老院派と結託し、カエサルを呼び戻すよう元老院に圧力をかける。それまで回避してきた訴追を受けさせようというのである。カエサルとしては意気揚々と凱旋を果たし、再び執政官に任命されるつもりだった。そうなれば今後も訴追を受ける恐れはなくなる。ところが紀元前50年、元老院はポンペイウスが望む通り、カエサル召還の命を発した。もしカエサルがこの命令に従っていたなら、おそらく反逆罪という重罪に問われ、政治生命はいうに及ばず、文字通りの命さえも危険にさらしていただろう。
渡河の決断
要するに、元老院がカエサルを追い込んだといってよい。ローマの法に従い、将軍としての野心も政治家としての野望も捨て、死刑を宣告されるかもしれない裁きに身を委ねるか、それとも、配下の兵が自分の命令に従い、まだ忠誠を示してくれるうちに、戦って血路を開くか—―ルビコン川の堤に立つカエサルが迫られていたのは、明らかにこの二者択一だった。もっとも、一個軍団を引き連れてきたところからして、カエサルの腹は最初から決まっていたようにも見える。
カエサルはその著書『内乱記』のなかで、ルビコン川を越えたことには触れてさえいない。彼はただ、「ポンペイウスと元老院から不当な扱いを受けたため、第13軍団をガリア・キサルピナのラベンナからイタリアのリミニに進軍させた」とだけ記している。ルビコン渡河をあえて伏せることによって、もしかしたらカエサルは、自分が(軍団を率いてイタリア入りすることで)ローマの法を破ったという事実を──たとえ、同時代人には明々白々だったとしても──認めまいとしたのかもしれない。『内乱記』は、一連の出来事を正確に書き表そうとする試みというよりは、自己正当化のためのものという色合いが濃い。カエサルは、自分をローマに盾突く反乱軍のリーダーではなく、ポンペイウスによる独裁支配からローマを解放する英雄として描いているからだ。
カエサル率いる一個軍団6000の兵がローマに向かって進軍するなか、ポンペイウスははるかに大きな兵力を有しているにもかかわらず、都を放棄してイタリア南部まで撤退することを決める。カエサルが追撃すると、ポンペイウスは再び戦いを避け、さらにギリシャまで逃れる。これを追う前に、カエサルは腹心のマルクス・アントニウスにローマを任せ、ポンペイウスが別の兵力を配備しているスペインに駒を進める。
・・・・・・・・・明日に続く・・・
⨁⨂ 参考資料: 皇帝に成り損ねたカエサル =2/8= ⨂⨁
元老院派と平民派の対立
当時のローマは、市民による選挙政治を目指す平民派と元老院派が争っていた。元老院は国家統治における最重要機関で、ローマ建国以来の有力な貴族(パトリキ)を議員として選びました。終身である元老院議員は、為政者への助言機関としての役割を持つのみで、直接権力を持つはずはなかったのですが、実際には政治をコントロールするまでの力を持っていた。そのため、家系で元老院議員をたくさん輩出すれば、特権階級への道が開けたわけで、狙えるものなら誰だって元老院議員を志向した。
とはいっても、元老院議員への道は狭く険しいものでした。17歳以降、10年以上の軍事経験が必要とされ、それなりに戦場で活躍し、見識が豊富でなければ元老院議員に成れなかった。
さて、カエサルの青年時代、当時争っていた平民派と元老院派ですが、平民派の中心人物ガイウス・マリウスはカエサルの義理の叔父でした。そのため、カエサルも自動的に平民派であると世間には認識されることとなります。そして、前84年、父の死去に伴い16歳で家長となったカエサルは、翌年に最初の結婚をします。ここから彼の人生が動き出していくのです。
粛清の窮地から亡命へ
ローマの情勢は相変わらず不安定でしたが、元老院派のスッラがついに権力を握ることとなり、平民派への粛清が始まる。当然、平民派とみなされていたカエサルも窮地に陥ります。ただ、この時彼はまだ18歳。実際、大した政治活動もしていなかったので、周囲は彼を何とか助けようと声を上げました。その声に押されたスッラは、渋々カエサルを助命したのです。
しかし、スッラはカエサルの資質を見抜いていたようでした。助命を願う周囲に対して、彼はこう言った「君たちにはわからんのか?あの若者(カエサル)の中には多くのマリウスがいるんだぞ」。マリウスとはカエサルの義理の叔父にあたるガイウス・マリウス。平民派の筆頭であった人物でした。時の権力者だったスッラの目は、カエサルの中でまだ目覚めていない才能を見抜いていたのでしょう。
カエサルを助命する代わりに、スッラはカエサルに離婚を命じました。カエサルの最初の妻は平民派の大物の娘だったからです。しかしカエサルはこれを拒否し、その結果、国外へ亡命することとなった。
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