痛い腰をさすりながら、壁を伝って歩くのもやっと。

そんな私の視界に入ってきたのは、彼が私以外の女性を壁ドンして、キスしている姿でした…。

 

あまりにも衝撃的な映像に、一瞬フリーズし、そのまま、その場から離れると、只事ならぬ、私の表情を見てか、彼の友人達は、私が今来た方へ、小走りで向かっていきました。

 

 

「オイ!お前何やってんだよ!」

「お前さーレイナちゃん連れてきて、何やってるんだよ!!」

 

 

口々に、彼を叱責する声が聞こえてきます。

 

 

そりゃそうですよね…彼女を紹介するために、自分の友人達の飲み会に、連れてきたくせに、当の本人は、彼女を放ったらかしにして、女の子を口説きながら、楽しい時間を過ごし、挙句に、その子とキスをしていたのだから…

 

 

男友達だって呆れるだろうね…

 


キスされてる女の子も女の子だけどね…

 

 

そして、放置された挙句、階段の上から、意味もなく突然突き飛ばされた、可哀想なレイナは、実はその時、仙骨と尾骶骨を骨折していました…

 

 

当然、その時は、骨折してるとは夢にも思わず…ただ強打した腰をさすりながら、初対面の、彼の友人達に迷惑をかけちゃいけないと…ただひたすらに、痛みに耐えていました。

 

 

結局、酔っ払って前後不覚となった彼は、友人達に支えられて、私の元へ戻り、こともあろうことか、車で来ていた彼を、連れて帰るために、お酒を飲まなかった私が、彼の車を運転して帰る事になったのです。

 

 

実は私、その時は、免許取り立てで…一般道を走ったことは、ほぼ無し。挙句、彼の住むエリアの土地勘ゼロ。

 

 

当時は車にナビもついてなくて、スマホもなかったから地図も見れなくて…ただひたすらに、道路標識だけを頼りに移動。
 

 

私が必死に運転している時も、助手席で眠ってるように見えていた彼が、時折、「気持ち悪い…吐く…」と言うので、その度に車を路肩に停めて、彼を車から降ろして、ビニールに吐かせ、水を買いに行ったり、もう散々…

 

 

えーっと…みなさま、覚えてますか?

私が、仙骨と尾骶骨を骨折しているのを!!!

 

 

座ることすらままならない私が、車から降りたり乗ったりするのも辛いのに…さっきまで、目の前で他の女とキスした彼を、なぜ介抱しなくちゃいけないのか…

 

 

いま思えば、怒って帰ってしまえばよかった。

それをしなかったのは、彼の友人達の手前、良い彼女を演じていたのかもしれないなー。

 

 

そして、心配した友人が、彼の携帯を鳴らし、私がその電話に出ると、道案内をしてくれました。

 

 

やっとの思いで彼を自宅に送り届けると、家から母親が出てきて、泥酔した彼の頬を引っ叩き、私に向かっては、

「迷惑かけてごめんなさいねー!気をつけて帰ってねー」

とだけ伝えて、さっさと彼を連れて家の中へ入ってしまいました。

 
 

ポツンとその場に残された私。ここがどこなのかもわからない。溢れる涙を抑えながらも、その場を立ち去り、人気の多い場所へ移動しようとしたら、誰かに呼び止められました。

 

 

彼の弟が、彼の友人達から連絡を受けて、私が困ってるのを知って、家の外に出てきてくれた様でした。

 
 

「これ、アニキの財布です。いくらで帰れるかわからないけど、持って行っちゃってください」

そう言って、彼のお財布の中から2万円を出し、私の手に握らせてくれました。

 

 

「ありがとうございます。手持ちがなかったので助かりました。では2万円お借りしますね」

そう言って、私は彼の弟の道案内で大通りへ出て、そこから県をまたいで、自宅に戻りました。

 

 

あの時、他の女性とのキスを目撃した私が、なぜその後も、彼と一緒にいたのか…

いま思えば、謎ですが…恐らく骨折の責任を取ってもらったんじゃないかな…と言う気がします…笑

 

 

ずーっと松葉杖生活を送る羽目になり、日常生活がままならない状態だったのと、彼が、友人達から、あの日の出来事を聞き、顔面蒼白で連日謝罪に来たことで、許してしまったのかもしれません。

 

 

結局、治療費やらタクシー代やら、彼がほとんどを負担してくれました。酔っ払いが、酔った勢いでした事で、記憶もないと本人が言うので、その場を収めてしまった自分を叱りたいけど…

 

 

結局、私は彼を許し、その後も交際を続けて、結婚してしまいました。

 

 

その後、とんでもないイバラの道が待っているとも知らずに…