私が今いる、この部屋で、夫が女性と重なり合っている動画を、見る羽目になってしまった私。

体がフリーズして、思わず画面から目が離せなくなってしまっていたが、耐えきれずに、目を無理やり閉じようとしたその瞬間、画面の中にいた女性が、体勢を変え、カメラの方に向かって四つん這いに・・・!

 
 

夫と重なり合っていた女性の顔が、画面にしっかりと映し出される。


 

知らない女性だった。

 
 

いや、厳密には見覚えはある女性だった。

 
 

ーー夫の元カノだ・・・

 
 

ふと、夫の昔のアルバムで発見した、ある女性の顔と重なる。

夫が私と付き合う前に、付き合っていたと言う女性の顔に、似てる…というかその人だ…と直感した。

 
 

頭の中で、過去の出来事がフラッシュバックする。

実は、私が彼と付き合い始めた頃、私は、誰かにストーカーされていた。

郵便物がなくなっていたり、無言電話がかかって来たり、嫌がらせのようなものが続いていたのだったが…

 
 

色々調べた結果、犯人は、彼と付き合っていた元カノだったことがわかり、彼の忠告で、一応はおとなしくなったかのように思えていたんだけど・・・

 
 

今、私の目の前で、夫と肌を重ねて、喘ぎ声を出しているのは、間違いなく、そのストーカー騒ぎの犯人である、夫の元カノだった。

 
 

猛烈な吐き気とともに、涙がポロポロと流れ落ちていく。

衝撃が強すぎて、これ以上、見進めることができず、一時停止ボタンを押して、視聴を終了させた。

 
 

涙が次から次へと溢れ出て来て、体もガタガタと震え出してきて…今の、この状況から逃げ出したくて、苦しかったのを今でも鮮明に覚えている。
 

自分の夫と、他の女性が、この部屋で絡み合っていたなんて、信じたくはなかったし、そんな場所に一人でいるのは耐えられなかった。


 

バタバタと席を立ち、身の回りのものを、手近なバッグに詰めて、車の鍵を手にして、家を出る。

 
 

どう家を出たのか覚えていないし、鍵をかけたかどうかも覚えていない。

あれ・・・?パソコンの電源切ったかな・・・どうでもいいや・・・今は、何も考えたくない・・・

 
 

車にエンジンをかけ、出発させる。
 

ーー実家に帰ろう・・・
 

そう思い、車を発進させた、そのとき!!!

 
 

ガシャンッ!!!

 
 

車は電柱に激突。ボンネットが開き、フロント部分はグニャリと歪んで、白い煙が立ち上がっていた。

 車のシートに座ったまま、しばらく動けずにいた私。

 
 

そして、再び、大粒の涙が、頬を伝う。

 
 

事故をしてしまったから?

怪我をしたから?

車を傷付けてしまったから?

 

 

 

傷付いたのは、私。

大怪我をしたのは、私の心。

 
 

心に負った、大きな傷は、自損事故によって、さらに大きく抉られ、レイナの心を深く傷つけた。

 
 

ーーどうしよう…

 
 

事故を起こしたのは、初めてで、何をどうしたらいいのか、さっぱりわからない。

 
 

保険会社に連絡するの?

ディーラーに連絡するの?

あ…どっちも連絡先、知らないや…

 
 

ーーどうしよう…

 
 

連絡するあてもなく、途方にくれた私は、今、一番連絡したくない相手に、連絡をせざるを得ない状況に陥ってしまった。