夫が与えてくれたパソコン。
それは、夫が過去に使っていて、今は使っていないというパソコンだった。
「中身は俺の方で確認して、必要なものは移しておいたから、気にしないで使っていいから。要らないファイルとかは捨てていいから」
と、そう言われたので、設定を初期化して、イチから設定し直して、使いやすくしよう!
そう思い、全てのファイルを削除する前に、念のため、ひとつひとつ開いて、本当に削除していいものか、確認をすることに。
結婚したとはいえ、つい最近までは他人だった夫の私物を、勝手に覗いているようで、あまり気持ちのいい作業とはいえなかった。
夫いわく「好きにしていい」ということだったので、恐らく、夫の方で既に、綺麗にしてくれているだろうけど、まだフォルダにファイルが残っているものがいくつかあったので、何となーく気になって、ひとつひとつ、確認し、削除していくことにした。
ほとんどが流れ作業のようになっていて、ひとつひとつのファイルを、そこまで注意してみることもせずに、テレビを見ながらの、流れ作業でチェックしていただけだったが、とあるフォルダを開いた時に、目に入ってきたのは、1つの動画ファイルだった。
ーーあれ?動画ファイルなんて、珍しいな・・・
そう思った私は、その時、妙な胸騒ぎが・・・というよりも、女の勘のような、そんな妙なものが働き、一瞬躊躇したあと、そのファイルをクリックしてしまった。
押してはいけないボタンを押してしまったのかも…と思った時には、既に動画がスタートしていた。
その動画ファイルを開いた瞬間、画面に広がったのは、真っ黒い画面。
ーーなんだろう?動画じゃないのかな?音声ファイルだったのかな?
そう思いながら、ファイルを早送りしようとしたその時、そのファイルから聞こえてきたのは、女性の喘ぎ声・・・
「アンッ・・・ユウくん、そこ気持ちいいっ・・・」
ーーえ?ユウくんって・・・?!
テレビを見ながら、流し聞きしていたけれど、ふと視線をパソコンの画面へ移してしまった…。
相変わらず、画面には、真っ暗な映像しか写っていなかったが、明らかに、男女が営む声が鳴り響き、パンッパンッと乾いた音が聞こえてきた。
私は、自分の心臓の鼓動が、身体中から振動してくるほど、大きな音を立て始めたのを感じた。
そして、胃から酸っぱい液体が喉の方へ上がってくるのを感じ、思わず嗚咽し、フラフラっと椅子にもたれかかる…。
見たくないのに、パソコンの画面から目を離すことができない…。
胃の底から、湧き上がってくるものを、ゴクリと飲み込んで、一瞬、目をつぶった。
数秒・・・つぶっていたかな・・・
ふと、まぶたの裏に、明るさを感じて、パッと目を開き、画面に視線を移した。
すると、見覚えのある光景が、視界の中に飛び込んできて、目を見開く。
ーーえっ・・・そんなっ・・・
画面の中に写っていたもの・・・
それは、今、レイナがいる部屋の隣にある、コタツの置いてある和室の部屋だった。
コタツの奥で、夫が動いている・・・。
そして、夫以外の人物の足が2本・・・。
夫はその足を掴みながら、一生懸命前後に動いていた。
「アンッ・・・アンッ・・・」
「ゆぅくん…そこっ…だめっ…アアンッ…イイっ…イっちゃうっ…!!」
「アアンッ…もっとっ…奥っ…アアンッ…そこがイイのっ…!!」
その足と、声の持ち主は、明らかに女性。
でも、その声の持ち主は、レイナではない…当然、見えてる足も、レイナのものではない。
レイナの知らない女性の声が、画面の中から聞こえてくる。
「アンッ…アンッ…!」という喘ぎ声と一緒に、パンッパンッという乾いた音が響き渡る。
声だけではなく、映像がレイナの視界の中に飛び込んできて、目を閉じたくても、閉じれず、まるで金縛りにあったかのように、私は画面から目を離せずにいた。
「ユウくん、大好きっ❤︎」
見ず知らずの女性の声が、自分の夫の名前を呼び、私たちの、この家で、その部屋で、明らかにセックスをしている・・・それだけは確かだった。
女性の顔はまだ見えない。喘ぎ声と、肌と肌がぶつかり合う音だけが鳴り響き、レイナの耳の中をこだまする。
いよいよ耐えられなくなって、レイナが目をつぶろうとしたその時!
2人が体勢を変えて、女性が四つん這いになったときに、パソコンの画面の中で、女性の顔が、照明の下に晒された。