「おのぼりさん」という言葉がある。江戸時代に京や江戸に行くことを「上る」と言ったことから、田舎から東京へ来る観光客で、慣れない土地でキョロキョロしながら歩いている人を嘲笑うようにいう言葉で、余り良い意味の言葉ではない。最近ではほとんど使う事のなくなった言葉ではあるが、東京生まれのさすらいにとっても、都内でも知らない場所が多く「おのぼりさん」状態で過ごすことも多い。カミサンと二人、「おのぼりさん」に徹して東京散歩を楽しむことにした。
先日娘の嫁ぎ先のご両親が東京に出てこられて、羽田空港を見たりはとバスに乗ったりしり事を聞き、我々もはとバスに乗ることにした。
東京一日コース、半日コースなどの他にも、趣向を凝らしたコースはあるが、どこかを見学しながら乗り降りするコースは、行ったことがある場所ばかりだから興味はない。1時間車上からの景色を眺める1時間のコースを選んだ。これだと本数が多く、気軽に乗ることもできるし、料金も1600円と格安。それでも大した面白いことはないだろうと高をくくっていた。ハローキティーの絵が描かれたバスはスカイツリーコースで、二階がオープンになっているバスがレインボーブリッジコース。少々寒いが、天井のないオープンバスを選ぶ。
東京駅をを出発。皇居に向かう。正面に二重橋。昔は木の橋が架けられていて、「ふたえ橋」と呼ばれていたが、鉄の橋に変わって「にじゅう橋」と呼ばれる様になったと、バスガイドさんが教えてくれる。ガイドさんの説明は、その後も「乗って良かった」と思う大きな要因になる。対象が、地方から来られた観光客の方が中心だと思うが、東京に住んでいても、実に東京のことを知らないと思うことになる。江戸城の桜田門を見て、左に警視庁。ビルの高さは110メートルだと言う。110メートルに届かなかったビルもかさ上げして、わざわざ110メートルにした。110番だからで、消防庁のビルは119メートルである事も知った。正面には国会議事堂。国会会期中でもあり、入り口にはたくさんの警察官や車両が入っていく。日の丸の横にはエジプト国旗。エジプト大統領の訪日でもあり、各道筋にもエジプト国旗がたなびく。ガイドさんの説明がなければ、そんなことも知らなかっただろう。
霞が関ビル、愛宕山を見て赤羽橋へ。東京タワーがグングン近づいてくる。タワーの真下に来ると圧倒される。スカイツリーも良いが、やはり東京の象徴的ものと言えば東京タワーで、出来たころの思い出も蘇ってくる。芝公園の首都高の入り口。一番狭い乗り口だそうで、大型二階建てバスが通り抜けるのもぎりぎり。さてこれから首都高速に入るが、帽子やマフラーなど飛ばされないように注意するように言われたが・・・
浜崎崎ジャンクション。運転していると余り見る事は出来ないが、じっくり眺めながら通過。流石に高い場所を走っていると、屋根がないからものすごい風が来るし寒くてぶるぶる。カミサンには出かける時に「今日は17度になる」と言ってしまったので、ストールもマフラーもなし。こちらもジャケット一枚だから、自分のマフラーを貸すに貸せない寒さ。隅田川の下流を見ながらレインボーブリッジを渡る。遠くに見えるのが、今年11月に開業する豊洲市場の建築現場。右手にはフジテレビの社屋やお台場海浜公園。思わず寒くて時計を見るが、まだ20分以上乗っていなければならない。早く首都高を降りてほしいと思ったりする。
首都高を降りると、そこが築地市場から移転する豊洲市場の建築現場。これから築地に変わって豊洲に来るとなると、かなり不便になると感じる。建設問題では、いろいろ議論があったが、いよいよ本格的に移転の行動に入ることになる。バスを降りてから向かった築地市場は、良く見るともうボロボロ。活気のある朝とは違い昼過ぎの築地市場場内は、哀しみにあふれているようにも思えた。
豊洲から晴海に入り、勝鬨橋。築地市場が見えてくる。ここの厚生会館は、父が受け継いだ東日本居合道会で、何度も大会を開いた場所。ここも無くなってしまうのだろう。路地路地で見られる築地市場場外は、たくさんの人でごった返している。ここで降りたい気持ちになる。
銀座に入る。新橋演舞場から右手に今度は歌舞伎座。演舞場に通う時にいつも通る道だが、バスの上から眺めると景色が違うし、バスを見上げる人たちと目が合うのが気恥ずかしいが、その反面優越感を感じるから不思議だ。二階建てのバスというのは、普段見られない目線で街を眺めているから、新鮮にも思える。間もなく東京駅に着くのだが、少々バカにしていたはとバスなのだが、バスガイドさんの説明と、見慣れない景色が見れたことで大満足。また次はスカイツリーコースに乗りたいとも持っている。
再び皇居を正面に見る。ガイドさんの「なんですかね?」の言葉に右手を見るとザ・ペニンシュラ東京の前で記念撮影。最初は結婚式の記念写真かと思ってみていたが、どうも韓流スターが立っているような気がしてカメラを向けた。するとその奥に学ランに腕章の人間が見える。それも横のノースリーブの女性よりも背が低い。岡村君だ!乗客のほとんどが気が付いていないが、カミサンに「岡村じゃない」というと、乗客のみんながそちらを見る。カメラを望遠にして撮ったら、そこには国分君の顔も。「ごちになります」での撮影のようだ。家に帰って写真を確認するとぎばちゃんも写っていた。最後のおまけのようなことがあって、無事東京駅に到着。東京のいなかっぺであるさすらいの、東京観光の模様でした。