中国人投資家、苦境の旅館に食指 2月の相談2倍も
2021/4/12 5:00 日本経済新聞 電子版
中国人投資家が新型コロナウイルス禍で苦境の旅館やホテルに食指を動かしている。宿泊施 設の売買を仲介するホテル旅館経営研究所(東京・中央)では、2021年2月に中国人による 買収案件の相談が240件と前年同月の2.4倍になった。大阪市の業者も増加傾向だ。中国人の 豊富な資金は宿泊施設には魅力的だが、地域経済への波及効果や雇用維持に懸念もある。
「そんなに高く売れるんですか」。2月中旬、佐賀県の嬉野温泉(嬉野市)で大型ホテルを経 営する男性は目を丸くした。仲介業者が提示した中国人への売却額は十数億円。国内の宿泊 施設大手がコロナ前に提示した金額より6割高い。5月中にも売却する方向で、将来は中国人向けホテルとして整備する。
主に中国人に不動産売買を仲介する東寧(大阪市)では、2月下旬から「ホテルの価格は下がったか」「今が買い時か。おすすめの場所は」といった相談が増えている。永田林社長は「6 割程度は投機目的だろう。コロナワクチン接種も始まり、長期的には物件価値が安定すると みている」と話す。コロナ前に月200件弱だった相談件数は20年10月を底に回復し、21年3 月は約30件だった。
ホテル旅館経営研究所では中国人からの相談件数が1月は260件と、コロナ前の18年12月以来の高水準だ。21年2月は香港の投資家からの相談が110件と前年同月の5倍強に。中国政府が香港の統制を強める香港国家安全維持法の導入を決めた20年5月から増加傾向だ。辻右資所長は「将来への不安から海外に資産を移す需要が高まっている」とみる。
物件の見学ができず実際の売買は低調だが、コロナ収束後のインバウンド(訪日外国人)需 要への期待は強い。渡航が解禁されれば、成約が増えるとみている。投資対象も変わってき た。辻氏は「以前はただ和風の物件を求めていたが、今は1人1泊4万円など4つ星クラスの高 級旅館にニーズがある」と指摘する。
宿泊施設と中国人経営者の売買を仲介するチコ(東京・港)の佐藤健治社長は「コロナで価格が下がり、高級旅館が手ごろになった」と分析する。中国人の間で「玄人好み」な個人旅行の人気が高まっていることも背景にある。「ワサビが好きな中国人が友人と金を出し合って、産地に近い長野県松本市の温泉旅館を買おうとした」(佐藤社長)という。
東京商工リサーチによると、20年の宿泊業の倒産件数(負債額1千万円以上)は19年比57% 増の118件で、7年ぶりの高水準だ。不動産サービス大手のジョーンズ・ラング・ラサール (JLL)によると、投資家の20年の日本のホテルへの投資額は62%減の2170億円だった。コ ロナに苦しむホテルや旅館にとって、日本企業より高値で買ってくれる中国マネーは魅力的 にうつる。
ただ、懸念もある。日本総合研究所の藤波匠上席主任研究員は、買収後について「中国語への対応や人件費を抑えるため、それまでの従業員が解雇されるおそれもある」と指摘する。 個人旅行が増えたとはいえ、観光庁によると中国人の約3割は団体旅行だ。大型バスで観光名 所や免税店を回り、地域の商店街には恩恵が及びにくい。
藤波氏は「地域の顔である伝統的な旅館が海外投資家に買収されることに不安もあるだろうが、潰れるよりはいい。雇用や建物の維持を中国側と取り決めるなど、日中で連携して地域の活性化を目指すべきだ」としている。(佐藤遼太郎)
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