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トム・ラントスという名前はわれわれにもなじみがある。
２００７年に米国議会が日本政府に慰安婦問題での謝罪と真相解明を求める決議案を初めて採択した際、決定的な役割を果たした人物が当時米国議会下院のトム・ラントス外交委員長だった。
「慰安婦問題は韓日間の特殊な歴史」と主張し決議案を廃案にしようとする日本の執拗（しつよう）なロビー活動に対し、ラントス議員は「人類の普遍的な女性の人権問題」という原則で反論した。
ロビー活動に揺らぐ議員らには「公開の席で考えを問いただす」と圧力をかけ、決議からの離脱を阻止した。
妻のアネット氏も被害女性から手紙を受け取り、これを議会で提示し世論の造成に力を尽くした。
ナチスのホロコーストからの生存者という経験がラントス議員を人権闘士の道へと導いた。
米国議会はラントス議員の献身と業績をたたえ、彼が他界した０８年に「トム・ラントス人権委員会」を発足させた。
今回このラントスという名前が再び注目されている。
ラントス委員会が「韓国政府による『対北ビラ散布禁止法』は人権や表現の自由を侵害している」として聴聞会の開催を予告したのだ。
この委員会は過去１２年間、北朝鮮関連の４回を含め、主に中南米や東南アジア、アフリカ諸国における人権侵害を追及する聴聞会を１４４回開催した。
経済協力開発機構（ＯＥＣＤ）加盟国の中で対象となったのはメキシコくらいだ。
ところが米国にとって民主主義陣営の重要な同盟国であり、世界１３位の経済大国、さらには人権弁護士出身の大統領がいる韓国の政府が反人権を理由にこの委員会から尋問を受けることになった。
今韓国はかつての日本と同じく「（南北）関係の特殊性」という論理で聴聞会阻止に向け全力を挙げている。
なんとも言えない歴史の繰り返しだ。
人権や表現の自由が「人類普遍の価値」であることは国際社会における大原則だ。
「民主化」「進歩」を掲げる現在の執権勢力がこれを知らないはずがない。
第三世界で起こっている人権弾圧、表現の自由抑圧問題について彼らにコメントを求めれば、間違いなく教科書的な答えを返してくるはずだ。
「内政干渉」だとか「国ごとの特殊性」などの言葉は人権後進国がよく使う苦しい言い訳にすぎないが、このことも彼らが一番よく知っているだろう。
しかしこの政権の関係者は「北朝鮮」の前では完全に別の思考回路にはまってしまう。
全ての問題を北朝鮮の立場で考え、理解しようとするのだ。
人権弾圧や三代世襲、さらには核開発まで擁護し後押しするのだから、ビラを阻止するくらい何でもないだろう。
「自分たちは平和を願っている」という自己確信、あるいは催眠ゆえにためらうこともない。
「一部の団体による展示型の散布は規制できるが、ビラの発送そのものを違法にすることはできない」という合理的な指摘にも「フェイクニュース」「反平和」などとレッテルを貼る。
北朝鮮ともう一度「平和ショー」さえできれば批判的な世論を抑えることができるし、選挙で票も得られるという計算も同時に行っているはずだ。
「ビラ問題を解決したので、今度は北朝鮮がこれに応える番だ」という大統領の外交安全保障メンター（顧問）の言葉にもその本音が表れている。
そこまでは目指すゴールの領域だが、その後遺症を最小限に抑えるのは能力の問題だ。
ところが韓国政府・与党はビラ禁止法が米国はもちろん、全世界の自由民主陣営から反発を引き起こすとは全く予測できなかったようだ。
そのため国際社会の懸念を払拭（ふっしょく）するために必要な事前の努力も全くしていなかった。
問題が起こった後になって大騒ぎをしているのだから、当然解決はできず逆に問題を一層大きくしている。
「同盟国に対する礼儀ではない」「米国が人権問題で説教できる立場か」などとかんしゃくを起こし、海外の識者から好意的な言葉を無理に引き出そうとした結果、当事者から誤訳だと抗議された。
国際的な人権の舞台で経験を積んだはずの康京和（カン・ギョンファ）外交部（省に相当）長官はその間に何を思ったか気になるところだ。
戦略を立てて動くのではなく、先に動いて問題を起こし、後からこれを解決しようとするのはアマチュアのやり方だ。
もしその問題解決もまともにできなければ三流だ。
対北ビラ禁止法を巡る一連の事態は、人権に関する韓国政府の薄っぺらい認識、そしてその無能な外交政策のあからさまな実態を同時に満天下にさらけ出してしまった。
最悪の外交惨事として記録されるだろう。
イム・ミンヒョク記者