漢方ひりひりの湯から無事生還した僕らは、漢方薬の匂いを身体全体から立ち昇らせながら引越し先のマンションに戻った。ボーズは漢方薬の匂いにしかめ面だ。
駐車場には屋根付きの区画もあったのだが、地面が砂利敷きの区画を割り当てられてしまっていた僕は、大人しくその区画に車を入れた。
この区画は屋根が無い分、他よりも広いのだ。僕の青い流星号は横幅があるのでこれで良いのだ。(でも後で屋根付きの場所が良かったなと指を咥えました)
徹夜で高速を突っ走って来てすぐに熱い風呂に入ったので、僕は何だか眠くなって来た。こりゃたまらん。
しかし不動産屋との待ち合わせ時間は十時だ。引越しのトラックも来る予定なのだ。あと一時間ほどしかない。
不動産屋が来るまで部屋には入れないし、ホテルを取るほどの時間も無い。青い流星号で寝るのは狭くて無理。何しろこいつは二人乗り。屋根は開くけどシートは倒せない。
車をマンションの駐車場に停めたままどうしようどうしようと車を降りたり乗ったりおろおろしていたら、ボーズが車の窓に手を掛けて、にゃにゃにゃと叫んだ。降りたいと言う。ボーズの柔らかい肉球が窓に当たってぺたぺたと可愛い音を立てる。
そうかそうか、ずっと乗りっぱなしだもんな。おしっこだってしたいだろう。すまんすまん。
柔らかい肉球(見えてないけど)
抱き上げて車から降ろしてやると、いつもは元気に走り回るボーズが何故か変な踊りを踊っている。右手と左足を一緒に上げ、それを下ろすと入れ替わりに左手と右足を上げる。
ボーズのダンスはまるで砂漠に生きるトカゲのようなダンスだった。どういう事かと言うと、砂漠のトカゲは砂が焼けて熱いのでじっと足を着いていられない為に、交互に上げたり下げたりするのだが、それがまるで踊っているように見えるのだ。
ボーズの踊りがあまりに可愛いので微笑みながらボーズの踊りを眺めていたら、ボーズの表情が芳しくない。どうしてなのだろう。心なしか眉間に皺も寄っている。何故なのか。犬のしかめ面ダンス。
そこまで考えてはたと気づいた。これは踊っているのでは無い!足を着いていられないから交互に上げているのだ!見れば僕の駐車場区画は下が砂利ではないか!
そうだそうだ、砂漠のトカゲも砂が熱くて足を着いていられないので交互に足を上げたり下げたりしていたじゃないか。
ボーズの肉球は柔らかくて、この砂利の上を歩くのに痛くて耐えられないのだ。
なぁんだそうか。痛いのは可愛そうだけど、そのダンスが余りにも可愛いので僕らはずっと見ていたくて、抱き上げたりはしなかったのだ。ごめんね。でも君が大きく逞しく育つためには必要な試練だと思って堪えてくれ。いやそれともこれは軽い虐待か?
……そんなことないよね?
つづく