五階建てほどの高さのビル風呂の漢方の湯は、表の看板を見ると料金表が載っていて、そこには確かに「午前五時~八時 五百円」と書いてある。
そうか、この時間帯は客が少ないので安くしているのか、そういうことだったのか。だとすれば結構頑張ってる良心的な風呂ではないか。そうかそうかと何度も頷きながら車に常備してあるお風呂セットを抱えて門をくぐった。
カウンターには中年の女性が立っており、「お一人様五百円です」と普通に言われたので、言われた通りに普通に二人分千円を出すのと引き換えにロッカーの鍵を受け取って、一時間後を目安にして僕とツレは男湯と女湯とに別れた。
中に入る。脱衣所があり、そこからガラスの引き戸を開けると十箇所ほどのカランが並び、その奥に真っ黒いお湯が張られた湯船が見えた。そうかあれが漢方の湯なのか。
僕はその漢方の湯を横目で睨みながら他の誰より念入りに掛け湯をし、黒い湯に足を入れた。
温度はそれほど高く無い。四十度といったところか。ゆっくりと身体を沈め、目を瞑る。溜まっていた疲れがからだからじわじわと体外に抜けていくような感覚が……とか思っていたら、なんだか局部がヒリヒリし出した。そしてそのヒリヒリは次第に強くなり、かなりな痛みとなって来た。
驚いた僕は急いで湯船から駆け上がった。
どうなってんだ!
ふぐりに手をやるが別に傷ついた様子は無い。当然だ。湯に入っただけなんだから。水を被って身体を冷やすと、ヒリヒリは少し引いた。
湯船の奥の壁に貼られた説明書きに目を通す。そこには数種類の薬草の名前と写真と効能が記されている。ウイキョウやクコ、チンピや唐辛子……唐辛子?これか?ヒリヒリの原因は。しかしこのヒリヒリは強烈だぞ。
今まで自分なりに、様々な風呂に入って来たつもりである。ネットで銭湯日記を書いているヤ○さんともメール交換をした事のある僕である。その僕が、この風呂は強烈だと言っているのである。流石にガスマスクして硫化水素の立ち込める天然温泉に入ったりした事はないけれど、それなりに通の僕なのだ。その通がびっくりするのだから、素人には耐えられないヒリヒリなのである。で、僕は素人ではないので、その後どうしたかと言えば、湯船にどっぷりとつかりながら隣の爺さんと「いやぁ、このひりひりがタマランですなあ、お互い」などと言いながら一時間を過ごしたのだった。何が「お互い」だっての(笑)。
サービスショット。(本文とは関係ありません)
帰りにカウンターでロッカーの鍵を返して帰ろうとすると、カウンター内の中年女性が僕らを呼び止めて、当たり前のように手を出した。
「はいひとり三十円」
僕らはぽか~ん。何?何故?三十円?どうして?
「あ……そうですか……そうですよね。(とツレを振り返り)おいおいちょっと早く三十円、ふたりで六十円」
「え?え?あ。はいはい」
慌てて財布を開くツレ。
結局僕らは要求されるままに三十円ずつ払ったのだった。しかしあれは何だったのか、いまだに解らない。消費税なら二十五円のはずだ。どうせ取るなら入るときに取れば良いのにそうしないのはそれなりの理由があるのだと思うけれど、何の料金なのか解らないだけにそれが正しいかどうかも判断出来ない。
その後もこの漢方の湯には行ったのだが、帰り際の度に三十円取られ、何の料金なのか聞いてはみるものの今ひとつ理解出来ないままだ。だって、料金が千五百円の時間帯に行ってもひとり三十円なんだもん。消費税じゃないじゃん。どーゆー事よ。いや質問したのよ。質問はしたの。訊いたの。これって何なんですか?って。でも解らないの。意味が。「何とか料です」とかって言うんだけど、良く解らない。聞き取れないんじゃなくて、理解出来ないので記憶出来ないの。解ってもらえないかも知れないけれど。
済みません。今度機会があったらまた行ってみて、そんでもって改めて訊いてみます。でも、それでも解らなかったら許して下さい。オネガイします。いや多分解らないだろうから。