◆覚醒の思い出小説◆
(ちょっとお笑い系)
フランスプロヴァンスのグルジェフムーブメンツ合宿中に大きな覚醒が起こりました。
ティーチャーコースだったのでスーパーバイズを受ける時間もありグループメンバーは各国でムーブメンツティーチャーしていたりダンサーやヨーガリーダーだったりそれなりの経験者がほとんどでハイレベルなグループでしたが数人初心者が混じっていました。
中に全く全くはじめてでカラダを動かすことにさえ全く縁がなくウスペンスキー寄りのグルジェフ研究者のような方がいました。
メガネをかけたいかにも学者のような頭ばかり使っていそうなインテリジェンスプレゼンスなヨーロピアン中年男性です。
存在感が際立っていました。
ムーブメンツの中では悪目立ちと言ってもよいくらいに全くめちゃくちゃでさっぱりついて来れず列を乱しエネルギーを乱していました。
けれども彼は諦めずに随所自分なりに動き、困難なムーブメンツの状態にも、自分自身や周りを観察している静けさがしばしば彼の波動から漏れていました。
それは、恥とかダメとか出来ないとかいうようなセルフジャッジからなんてとっくに出ている人の誠実で真摯な取り組み方でした。
わたしはその人の存在に気づいてからはずっとその人をいつも探すようになってしまい、ある意味一目惚れ状態の三週間でした。
そしてわたしも人のこと言えず、プロヴァンスグループの中では先生が何を言っているかもとりあえず通訳なしには何もわからず、法則も動きの質感もどれもこれも初めてのかなり難題なムーブメンツばかりで言葉がわからないときには挙動不審でメンバーの邪魔的な厄介な存在。
『あぁ、ヤバいとこに来ちゃったな、』
と、情けなくなったり、必死な状態でした。
ある日いちばん難しいムーブメンツにみんなで取り組んでいる時にそれはやってきました。
わたしは全くできない、カウントと身体が不一致でやればやるほどにどつぼになり、雑になる自分を観ていました。
周りなんか全く暗闇で絶望で見えない状態、いっぱいいっぱいで自分のことしか考えていないスーパーエゴトリップ最悪状態です。
その時
ふと目の前を見たら、わたしのまっすぐ対面に彼がいました。
瞬間釘付けになり、ちびりそうなくらいの衝撃波にビビりました。
グループは大人数だったから半分ずつ向き合い列をつくりムーブメンツに取り組んでいたのです。
わたし乱れている?どころか
彼、彼を見たら、、、
もう、動きが支離滅裂で目の前で目撃しているわたしは目が回り倒れそうなくらい。つられてわたしもさらにさらにめちゃくちゃになる危険な強烈な破壊力、彼のムーブメンツリズムは随時狂いまくりで汗は流れて口は半開きで目は白目をむきながらも、ただただハクチのように必死で彼なりに動き続けている、というか、もう動いているというよりはラリっているような壊れているような。。。
わたしはもう見たくない、逃げ出したい。助けて、と、気が狂いそうなほどに彼の不協和音に持っていかれる、彼に同一化してしまう。
現象に苦しんで体験に呑まれながら
自分に叫ぶ。
『肚にいるのよ、観ているけれども見ていない。なにごともなし。禅よ!、禅!とにかく禅にすがるのよ!』
わたしには日本人として誇る禅がある!
『内側と外側のただの現象をただ静かに観てわたしはわたしのムーブメンツをキープするのよ、』
と、何度も自分に言い聞かせながら
『おい、お前、!その取り乱しまくりのどこが禅だ?かけらもねーじゃん!』
と、同時ツッコミセルフジャッジもしながら、
ぐっと肚に集中を落としてこらえ続けた。
ただのちっぽけなわたしならば彼の動きがあまりにもはっちゃけているから涙を流し腹を抱えて爆笑するか、その場から走って逃げただろう。
が、耐えた、
耐え続けた。
やがて、
わたしの頭のてっぺんがビリビリと割れる音がして、おおきな穴があいたみたいに頭のてっぺんがスースーしだした。
あ、覚醒がやってきた、と、瞬間悟った。
いつのまにか、ハチャメチャな彼をただ静かに見ながらわたしはわたしのリズムを掴み、わたしはグルジェフの与えてくれた優雅な手さばきとステップを快適に刻んでいた。
すべての力が抜けて神様にただ動かしていただいているような済んだ流れが身体を巡りだした。
その時先生はわたしの横でわたしを目撃しながら静かにうなずいていた。
いちばん苦手だったムーブメンツにも関わらず神が降りてきたとその時確信した。
曲が終わりゼロポジションのまま、
ただわたしは彼を漠然と見て、そして深く深く彼に感謝していた。
『彼がわたしを覚醒させてくれた。』
『彼のめちゃくちゃさがわたしを強くしてわたしを目覚めさせた。神だ!』
『ストレス、逆境ばんざーい』
と、彼への余韻を味わい尽くしていた。
しばらくしてから先生がわたしを押してグループのど真ん中に立たせた。
曲をかけた。
由紀、スタート、踊りなさい、
と言われ
わたしは初め何をさせられようとしているのか意味がわからなかったからぽかんと突っ立っていた。
みんなはただ興味津々な目でわたしを観ている。
何人かのクスッと言う笑い声さえ聞こえた。
わたしは大勢の視線の中、ひとりでこの苦手だったムーブメンツを踊りはじめた。
先輩たちの前で、晒し者のような気分でちっとも誇らしくはなかったけれどもだんだんと何もかも考えずにさっきと同じように覚醒した状態で動きだした。
周りはとてもシーンとしだした。
そして
数分すると先生が曲を止めて話した。
『皆さんの見本にしました。
由紀のこの動きの内側にはグレイスがあります。』
突然
みんなから拍手されて
先生は
『サンキュー由紀』
と言って笑った。
わたしは涙が少しだけでた。
人はとても苦しい苦手な状況や苦手な人がいると逃げたくなる
逃げてもよい
けれどもその苦しい状況をひたすらもがきもぐり通りすぎた時に
覚醒がやってくる。
グルジェフは障害はなによりのギフトだと言う。
昔あったいくつもの苦難や逆境を思い出していた。
わたしは立ち向かい死にそこない、
たくさん乗り越えて生き残ってきた。
同じように体験しながら死んだ人もいた。
わたしは生き残り今、ムーブメンツに生きている。
いやなこと、ツラいことは神様や宇宙の贈り物、覚醒のチャンスなんだ
と、たくさんの過去が溶けていった。
そしてこれからもいやなこと、ツラいことを楽しもうと少しだけ笑えた。