鉄道趣味の中で、廃線跡探訪というのがあるが、私は高校生の頃には、この趣味に目覚めていたように思う。列車が走らなくなった線路が、踏切の手前で切断されている状態を鉄道雑誌で見ると、哀愁を感じたものであった。
 
 
廃線といっても、鉄道路線そのものが廃止になったものもあれば、遠回りしていたのを、トンネルで短絡する新線を建設したために、従来の路線が廃棄されるパターンもある。
 
 
その他にもさまざまな事例がある廃線跡だが、私が今回行こうとした信越本線にも、そういう場所が存在している。特に海沿いに残っている区間では、遊歩道に生まれ変わった場所もあるらしい。鉄道の名残を感じながら、海を眺めるのは気持ちよいだろうなと思う。その地に立った自分を想像し、妄想は膨らんでいく……。
 
 


 
 
 
直江津から乗ってきた普通列車で「米山駅」に着いたのは、15時前であった。ホームの目の前には、海が広がっている。列車から降りたのは、私以外にカメラをぶら下げた若者が2人。列車撮影に来たらしい。
 
 
駅を出て、国道8号を歩くが、しばらくすると集落のある生活道路へ入る。下調べはしていなかったが、この界隈は旧北国街道らしく、宿場町の雰囲気が漂う。ここを歩くだけでも、途中下車した甲斐があったと気分は上々だった。
 
 
「米山海水浴場」への案内板があり、その方向に足を進めるが、先ほどの2人も付いてくる。廃線跡探訪が目的とは思えないが、私も鉄道撮影に来ていると勘違いしているのだろうか。
 
 
少し迷って、海水浴場への入口へ到着したが、視界に飛び込んできたのは閉鎖されたトンネルの入口だった。
 
 
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「えーっ!?」
 
 
このトンネルが、旧信越本線の線路跡で、これを抜けると海沿いを歩ける遊歩道だったはずだが、トンネル入口の状態からして、閉鎖されてからかなりの月日が経過しているようだ。しかし地図にはちゃんと遊歩道の案内があるし、どうも納得がいかない。
 
 
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仕方なしに、海水浴場と呼ぶには少し殺風景な砂浜へ足を踏み入れる。海水浴の時期はとっくに過ぎており、付近の工事関係者が休憩している他は閑散としていた。
 
 
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私が砂浜を歩くと、一組だけいたカップルが、うさんくさそうに私をチラッと見た。
 
 
「邪魔して、すまんね」
 
 
心で呟きながら、どうせなら私も海を感じようと靴下を脱ぎ、鼻歌まじりに水辺を行ったりきたりする。なんとも下らない時間の過ごし方だったが、廃線跡探訪がダメになったので、こうする他はなかったのだ。ま、それでもそれなりに楽しいひとときであったが…。
 
 
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乗る予定の列車の時間が近づいてきたので、帰り支度をする。しかし、ズボンのポケットに入れていた靴下が片方なくなっているのに気付く。
 
 
やれやれと辺りを探すが、なぜか見当たらない。砂浜をぐるぐる回ったが、結局見当たらず、廃線跡は歩けない、靴下は無くすといった災難に見舞われた米山なのであった。