自宅から東西南北と各方面へ街道歩きを実施している。その一環で、JR福知山線・丹波大山駅から柏原駅までを歩いた。実際の行路としては線路沿いではなく、国道176号線沿いにある旧道がメインであった。


 
現地に足を踏み入れると、道標も数ヵ所あったし、新しく建てられた地域の方が製作した案内板も整備されていて、町並みを大切にされていることが伝わってきた。街道沿いの風景は山間部の裾を行く落ち着いた感じで、途中、小雨に見舞われ雨宿りしたのだが、雨に煙る街道も雰囲気があって、心地よい気分が味わえたのだった。



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そして、今回の行程のハイライト・「鐘ヶ坂トンネル」へ到達した。伊能忠敬の古地図では「金坂峠」と記されている場所で、楽しみにしていたのである。グーグルマップを見ると国道176号のバイパスとは別に旧・鐘ヶ坂トンネルが表示してあって、私はそちらへ足を踏み入れようと歩きだした。すると、地元の高齢者男性から声をかけられた。タブレットを手にしている私を見て…。


 
「何がゲームでもしているのかね?」
 
「いや、これで地図を見ているのですよ、街道歩きをしているもので」
 
「どこまで行く?」
 
「最終的には、柏原が目標かと。今から旧トンネルを通ろうと思って」
 
「旧道は通行止めや。柏原まで行くなら、バイパスしかない。」
 
「バイパスに歩道があるんですか?」
 
「歩道はある。わしも柏原へ行く用事があるから、何やったら車で送ったろか?」
 
「歩道があるんやったら歩きますわ」

 
という感じのやりとりがあり、私はバイパスへ足を踏み入れた。昔の人の峠越えをバイパスでショートカットするのは味気ない気もするが、時代の流れを足で堪能するのも悪くはない。



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トンネルの中で、篠山市から丹波市の境界を過ぎ、トンネルを出ると、深い山々の間を縫うように旧道が見える。これを見るだけでも金坂峠の険しさが実感できた。良い景色を見られたなと感慨にふけっていると、背後からクラクションが鳴った。振り向くと、先程の男性が車内から手を振っている。私も手を振って会釈した。


 
しばらく歩くと、「鐘ヶ坂パーキング」の看板があり、背後に立派な建物が見えたので、トイレを済ませて一休みでもしようと考えた。しかし、この建物は廃業した宿泊施設であった。近づくと、窓ガラスは割られ、玄関前は廃屋にありがちな落書き。あまりにも荒廃ぶりに私は言葉を失った。カメラを向ける気にもならない。ちなみに帰宅後、この場所を検索すると廃屋スポットとして有名な場所だそうで、動画もあるみたいだったが、見る気は起きなかった。行政としてもこんな廃屋は一刻も早く解体したいところだろうが、簡単な問題ではないのだろう。



どっちにしても、こういった建物が国道沿いにあるのは好ましい状況ではない。しかしこの先、荒廃していないまでも、数ヵ所で食事処や倉庫とみられる廃屋があり、鐘が坂界隈の印象があまり良くなくなってしまったのは残念であった。

 
柏原の中心部へ近づくと、城下町らしい落ち着いた街並みが広がっていた。その中にある柏原駅も旅情色が漂う駅であった。帰りの列車までの間、私はホームで一杯させて頂き、疲れを癒したのだった。



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これから先のルートは、鉄道アクセスが困難な道が待ち受けている。どうやってたどるか考えを募らせながら、私は帰路についたのだった。