岡山県の柵原鉱山から産出された鉱石を瀬戸内海の港へ運び、晩年は沿線の通学輸送を担っていた片上鉄道が廃止されて、もうすぐ31年になろうとしている。

 

私は廃線までのおよそ3年間、片上鉄道へ通った。この体験がもとで、今でも片上鉄道の沿線を「心のふるさと」と呼んでいる。

 

久米郡美咲町に飯岡(ゆうか)という町がある。吉井川と吉野川との合流地点にある平野部に位置する飯岡は、昔は高瀬舟の発着地として栄えた歴史ある町だ。ここに片上鉄道の美作飯岡駅があった。

 

片上鉄道に通っていた当時はそんな歴史など知らず、ただ有名撮影地の第二吉井川橋梁が目的で下車していた。しかし、列車撮影の合間、駅前の木立で休んでいた時の木々のさざめきが気持ち良かったのを今でも覚えている。そして、列車を降り立った後、走り去る客車列車の姿を見た情景は、今でも思い出のハイライトとなっている。

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何年か前に始めた年に一度の里帰りで、今年も美作飯岡に帰ってきた。

 

あのさざめきを聞かせてくれた木々は、さすがに成長が過ぎてしまっていて、いびつな様相だ。

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でもそれ以外は、今年も変わらない姿をみせてくれた。後方にそびえる鶯山は、周囲の山々と比べてスギの植林があまりないようで、美しい姿なのも良い。やはりこの場所は心の里帰りを実感できる場所だ。

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ただ、周囲を歩いていると、リボンを巻いた角材が所々に打ち付けられているのに気がつく。どうやら何かの測量が始まっているようだ。

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高速道路の山陽道と中国道を結ぶ「美作岡山道路」が事業進行中で、既に一部区間が開通しているが、中間の吉井ICと湯郷温泉ICが未開通になっている。この未開通区間のルートが美作飯岡にかかっており、これまで地域住民の反対で工事が先送りされてきた。

 

改めて岡山県のホームページを見ると、令和3年から吉井ICと隣の柵原ICの区間が補助事業化され、測量・地質調査が実施しているとあり、いよいよ駅跡にも工事の手が入ってきたことになる。

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付近ののぼり旗はルート変更を要望する記述になっているが、近い将来この景色が一変するのは避けられない情勢のようだ。片上鉄道の廃止後31年に照らし合わせると、その期間に私の住んでいる周辺でも、様々な高速道路が開通している。着工となれば、工事はあっという間に進んでいく。

 

そんなことを考えると、名残惜しくなってくるが、また来年も来ようと言い聞かせ、何度か振り返りながら飯岡を後にしたのだった。