旧東海道の箱根越えを中断した私は、バス停「見晴茶屋」から箱根湯本行きの箱根登山バスに乗り込んだ。やって来たバスは、予想に反して満員だった。
 
 
バスは前乗り前降り方式なので、運転席横に立つ。今までしんどい思いをして登ってきた県道をバスは下っていくが、車内で立っていると、大げさでなく振り飛ばされそうになる。運転が荒い訳ではない。勾配がきつ過ぎるのだ。ちょっとでも、にぎり棒を離すとホントにフロントガラスへ突っ込んでしまうだろう。
 
 
それにしても、この箱根登山バスの「箱根旧街道・K路線」は有難い。このバスがあったからこそ、箱根越えを決行できたというものだ。箱根観光の裏ルートと呼べる、この路線でさえ日中30分間隔で運行されているので、観光地・箱根の偉大さを実感する。
 
 
箱根湯本駅に着くと、週末の温泉地の夕方の「いかにも」っていう空気に包まれていた。ここに泊まるという選択肢もあった訳だが、全体的に費用は高めだし、おっさん1人で泊まるという雰囲気ではない。
 
 
小田原駅に着くと、予約していた「ビジネスホテル・おかもと」へチェックインする。和室があるのが決めてとなり、今夜の宿はここに決めたのだ。
 
 
部屋に通され、入れて下さったお茶を飲むと、一風呂浴びに外へ出る。前もって調査すると、小田原にも銭湯があった。駅前の某スーパー銭湯ではない。駅から少し離れた場所にある「中島湯」だ。
 
 
普段の生活でも銭湯を利用しているくらい風呂好きなので、旅先で銭湯があると嬉しい。箱根越えで疲れた体を湯船に沈めると、「明日も歩くぞ」と気力が沸いてくる。風呂から上がって着替えをしていると、ちょうど「冷凍食品農薬混入事件・容疑者逮捕」のニュースの最中で、しばらく見入ってしまった。
 
 
中島湯を出て、晩メシを買う場所がないか探してみると、うまい具合に「ヤオマサ」があった。
 
 
せっかく旅先にいるのだから、どこか良い店で一杯という選択肢もある。今までの私なら、地元の店での食事を選択していただろう。ある町では、店で意気投合した方から名刺をもらったこともあり、旅の良さを実感したこともあった。
 
 
しかし、そういう経験をしたのはまれである。
 
 
大概は、居心地のあまり良くない店だし、店側からしてもおっさん1人には、なかなかには愛想良くっていう訳にはいかないのだろう。それなら、カッコつけなくて良いと最近思うようになった。仲間との旅行ならともかく、1人の場合は、自分のスタイルでいいじゃないかと。
 
 
なので、今夜もホテルで普段の家呑みと同じようにしようと思うのだ。ヤオマサでは、酒と惣菜を大量に買い込み、ホテルへ戻った。
 
 
部屋では、小田原の観光案内や持参した歴史小説を読みながら晩酌し、照明をつけたまま、布団に入るのも忘れて、うたた寝してしまっていたのだった。