2024年6月17日

立川流特選落語会〜めずらしや珍品噺@お江戸上野広小路亭

滅多に出ない、あるいは演り手が絶えたレア噺特集。内容からしてツバナレするのか心配しましたが、吉笑さん出演とあってそこそこいい入り。

一、真田小僧(全) 談声(開口一番)

談四楼一門オールドルーキーズ第二の女性。調べたら社会人落語サークル出身で声優との二刀流。先輩の志ら鈴さん同様基礎ができているのでキャリア一年ながらスーパー前座。「真田小僧」に入り、開口一番だしどうせマッサージ師の件までかと高をくくっていたら、なんとまさかのサゲまで完演。オリジナルのギャグあり、お父ちゃんが聴いてきた真田太平記をお父ちゃんの倍の早口で一度も噛まずに鸚鵡返しして場内から手がくるなど開口一番としては破格の上々吉。

一、将軍の賽 半四楼こちらは二つ目に昇進したばかりの半四楼さん。「この会の顔付けのときちょうど昇進披露会の直前、会の内容をろくに見ないで出演OKしたら寸志兄さんからこの噺を演るよう言われ、記憶力が落ちるなかドロナワでおぼえた。」というマクラでハードルを下げて本編へ。

嘉永六年、浦賀に黒船来航。浦賀奉行の交渉空しく黒船は品川にやってきた。これを受けて老中主査の阿部正弘は幕閣を招集するが、太平ボケで幕閣連中は脳天気な世間話ばかりでラチがあかない。困った阿部は尊王・攘夷の急先鋒水戸斉昭に相談、国学好きで仏教嫌いの斉昭は、寺院の梵鐘を集めて大砲に見せかけ、一度は黒船を撤退させる。一年後の対応の協議を始めるが、相変わらず脳天気な幕閣連中、終いには井伊直弼が持ち込んだ賽子で博奕を始める始末。阿部から報告を受けた十二代将軍家慶はカンカンに怒って自ら幕閣の詰所に乗り込む。そこで初めて賽子を見た将軍が賽子の目の意味を尋ねると、井伊が「一は上様を表し、四は徳川四天王を表し、三は御三卿…」と説明するが、「二は御三家を表します」に「二では水戸が足らぬではないか」と突っ込むと「水戸を入れると寺(テラ)がつぶれます」半四楼さんは東大出のインテリとあって、前半の地噺風の展開に説得力があり、後半のドタバタは滑稽噺指向が生きて爆笑。上々吉。

(詳しいあらすじはこちらをご参照ください)

一、幽女買い 寸志

かつての東京落語会の企画で家元が復活させた噺(このとき復活した噺はこのほか「やかんなめ(十代目柳家小三治)」と「死ぬなら今(春風亭小朝)」。奇しくも死後の世界を舞台にする噺が「付く」ことに)。

家元版は途中「地獄八景亡者戯」に寄り道するところで六代目圓生、五代目志ん生、三代目金馬など故名人をものまねで登場させたりしたが、寸志さんはスマホの「あの世情報アプリ」で最新のあの世事情をギャグを交えつつ披露。「渥美清がこっちに来たので男はつらいよは200作を突破。山田洋次はまだ来てないので小津安二郎、成瀬巳喜男、黒澤明が交互に撮っている」とか「立川談志十三回忌であの世立川流では上納金制度が復活、左談次、文字助、らく朝、文都らからブーイング」「快楽亭ブラックとガーシーが…あ、この二人はまだ来てない」でドカンと爆笑。

(詳しいあらすじはこちらをご参照ください。なお、サゲは変わっています)

一、陽成院 談之助

なんと「スパルタンX」に乗ってエメラルドグリーン一色の着物で登場。三沢光晴追善(6月13日が命日)で今月一杯これで出るとのこと。

こういうレア噺を復刻するとき、気をつけないといけないのは、どっかの師匠みたいに員数合わせのための雑な復刻ではダメで、米朝師匠やうちの師匠みたいに面白く復刻しないと。

先日在原業平の「千早ふる」の歌の意味を訊いてきた八っつぁんが今度は陽成院の「筑波嶺の 峰より落つる みなの川 恋ぞつもりて 淵となりぬる」の歌の意味を訊いてきた。例によってご隠居先生の珍解説で、筑波嶺と男女ノ川の御前相撲の一番ということに。途中「相撲穴(すもあな)」に寄り道して昨今の大相撲の迷走っぷりをチクリ。さすがの大爆笑。

(詳しいあらすじはこちらをご参照ください)

お仲入り

一、てれすこ・序 吉笑

寸志さんにこの噺をリクエストされた。前座時代以来十年以上演ってなかったので、ほとんどネタおろし。

生類憐令の嵐吹き荒れる元禄時代、大家さんと堀さん(堀右衛門=ホリエモン)が「見たことも聞いたこともない虫」を巡ってシュールなやりとりを繰り返した末、勇名な「あたま山」でその虫を発見。開帳して小金を稼ぐ。今度は「あたまヶ池」で「見たことも聞いたこともない魚」を探して一儲けを狙う。その魚の名は…という吉笑ワールドの快改作。

一、質屋娘 志のぽん

レア噺成立の要因に「他の噺と似通っている」というのがあり、今日はそんなお噺を…

質屋のお嬢様のお園と出入りの大工の下職六三郎が恋仲となるが、周りの大人たちは身分違いを盾に仲を裂こうとするが、二人は手に手をとって逐電、芝浜から船を出して入水するが、六三郎が芝浜に打ち上げられたのに対し、お園は品川まで流されて漁師に助け上げられた。何でお園さんだけ?に「質屋の娘だけに流された」というサゲ。

途中「小言幸兵衛」やら「おせつ徳三郎」やらが顔を出し、志のぽん師がうまく演れば演るほど類似性が際立って、結果今回の六席の中で一番「損」な一席に。レア化するのもむべなるかな。

一、にせ金(きん) 志ら玉

太平洋戦争前夜、時局にふさわしくない噺五十三席を禁演落語として浅草本法寺に「はなし塚」を建てて封印した。戦後全て解禁されたが、そのまま埋もれてしまった噺もいくつかあり、これもその一つ。禁演落語には廓噺や艶噺が中心だが、あまりにバカバカしい内容の噺も禁演とされた。要は大正デモクラシー下でもてはやされた「エロ・グロ・ナンセンス」がやり玉に挙がったわけです。

(詳しいあらすじはこちらをご参照ください)