2024年6月2日

講談協会定席津の守講談会(宝井琴調 文化庁芸術選奨大衆芸能部門文部科学大臣賞受賞記念公演)@荒木町舞台津の守



この度、宝井琴調先生が「文化庁芸術選奨大衆芸能部門文部科学大臣賞」という講釈師でも舌を噛みそうな賞を受賞、今回はその記念として「宝井琴調夏噺」と題して夏にちなんだお話で三日間トリをとります。



前講1 山中鹿之助〜尼子の獺退治 琴人

前講2 水戸黄門漫遊記〜百姓の御意見 凌々

前講3 猿飛佐助の生立ち 魁星


一、伊賀の水月(荒木又右衛門)〜戸塚焼餅坂 貞橘

日本三大仇討(曽我兄弟、荒木又右衛門、赤穂義士)の一つ荒木又右衛門の話は、浄瑠璃「伊賀越道中双六」になっているが、講釈でも仇討の舞台である伊賀の鍵屋の辻に因んで「伊賀の水月」と題される連続講釈になっている。今回は東海道戸塚宿、今も箱根駅伝の難所として知られる戸塚三坂(信濃坂、焼餅坂、権太坂)の一つ焼餅坂で荒木の槍持が鹿島流棒術の達人鷲津と揉め事を起こした末に槍を取り上げられてしまう。これを聞いた荒木、同道している宝蔵院流の使い手渡辺の名を借りて槍を取り戻すべく焼餅坂へ…

貞橘先生の一龍斎らしい軽い語り口でユーモアを交えつつ楽しい高座に。これでマクラでヘンなボヤきがなければ上々吉なんだがなあ。


一、高野長英〜水沢村涙の別れ 凌鶴

高野長英の生立ちと十三歳で養父と喧嘩の末に出奔して勘当となり、江戸の薬種問屋の世話で医師に弟子入りして医術を修め、五年後一時帰郷するが、立派になった姿を喜ぶ母を尻目に養父は勘当を盾に会ってもくれない。しかし…後半は養父が母に命じて他所ながらに長英を迎え入れる…という「火事息子」のような展開になる。凌鶴先生はこの昔の日本にはいっぱいいたであろうお互い素直になれない不器用な父子を端正な語り口で丁寧に語りおろしました。


一、トロイの木馬(ギリシア神話より) 琴星

ギリシア神話のクライマックス、トロイ戦争の物語をオリンポスの神々の会話を織り交ぜながら語りおろす…先日聞いた「ヴィーン講釈」のような明治の新作かと思ったら、琴星先生自作でなんと出来たてホヤホヤネタおろし。協会幹部の大ベテランでありながらなお新作を創り上げる意欲に脱帽です。神々の口調がちょっと伝法で(特にゼウス)、オリンポスがなんだか赤城の山みたいで面白かった。上々吉。



お仲入り

一、五平菩薩 香織

今朝も能登で地震があった。お正月の地震のときは琴調会長の号令一下、各初席会場で義援金の募金が行われ(あっしも些少ながら募金しました)、また泉岳寺講談会でも日本講談協会から義援金の募金が、被災地慰問に行った香織先生はその様子を講談教室の生徒に話されて、生徒たちからも義援金が集まり、先日石川県珠洲市に届けられた。

という義援金募金の御礼と挨拶をマクラに、江戸時代有数の大災害である浅間山の天明の大噴火の影響で井戸が枯れ、困窮した村を不屈の信念で井戸を掘り続け、ついに井戸を掘り当てて後に菩薩と讃えられる五平とその妻の物語を。


一、髪結新三〜鰹の強請 琴調

現在「髪結新三」として講釈、落語、歌舞伎(梅雨小袖昔八丈)で上演される筋はもともとは「白子屋政談」という長い連続物の一部で(本編は二代目紀伊國屋文左衛門の没落から始まる)、白子屋の御家騒動を聞きつけた髪結新三が手代忠七を騙してお熊を拐かす物語を新たに独立した連続物にしたもの。今回は歌舞伎でもよく上演される(歌舞伎では二幕目)「新三内の場」を中心にした「鰹の強請」を。琴調先生もお好きな場面とあって登場人物たちが活き活きとした上々吉の一席。マクラで二代目紀文の没落と白子屋の騒動を軽く説明、読み終わりに閻魔堂橋の騙し討ちにちょっと触れ、荒木町花街に江戸の風が吹き抜けてご令刻。