2024年3月6日
講談 伝承の会・初日@深川江戸資料館小劇場



講談界のこれからを担う二つ目、若手真打が幹部の先生からネタを受け継ぐ会です。東西超党派の講釈師30名に加え幹部の補導出演9名による全39席のマラソン講談会。一度行きたいと思っていましたがなかなか叶わず、今回ようやく初日・千穐楽の2日間に行くことに。

【幹部講釈師の指導による口演】
一、團十郎と武助馬 神田陽乃丸(指導:宝井琴調)
出てきた瞬間、師匠の陽子先生が出てきたのかと思った。それくらい「講談三人娘」時代の師匠に似ている。終始笑顔の明るい高座も陽子先生門下らしい。そのせいか琴調先生から習った通りのクスグリもよくウケて、楽しい高座に。
「武助馬」の題で落語にもなっているが、こちらは上方で嵐璃寛の弟子になったが猪とか鼠とか動物の役ばかりで人間の役がつかないので江戸に出て中村芝翫の弟子になっている。また顔の向う傷の話はなく、最後はサゲがついて完全に落語になっている。
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一、源平盛衰記〜扇の的 神田伊織(指導:神田松鯉)
古典を読んでも端正な語り口は変わらず。解りやすく丁寧な高座振りはいつもながら好感。これで修羅場にもう一段の迫力が出れば完璧。
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一、維納の辻音楽師 田辺いちか(指導:旭堂南海)
「日本人が無邪気に西洋文明に憧れていた時代に作られた新作講談」だという。同名の小説があるがほとんど別の話。講談本には明らかな嘘話も入っているが、今回はそのあたりも盛り込んで仕上げたとのこと。いちかさんの明るい語り口によく合ったヴィーン版「三十四丁目の奇跡」のような心暖まるエピソード。愛犬、というより忠犬トライエルくんがかわいい。
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一、加藤孫六 田辺一乃(指導:宝井琴嶺)
一向一揆に加勢したことで没落した加藤家の末裔孫六が馬喰の下働きから身を起こし、木下藤吉郎(豊臣秀吉)に認められて家臣となり、伊予二十四万石の大名加藤嘉明になるという戦国シンデレラストーリー。
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お仲入り

一、明智左馬之助光俊 湖水乗っ切り 神田紅純(指導:宝井琴梅)
「明智左馬之助湖水乗っ切り」は、修羅場あり、詠嘆場あり(近江八景が折り込まれた美文調)と盛りだくさんで、短いエピソードながらなかなかに難しかった。琴梅先生からは「修羅場もただ読み上げるのではなく、中に気持ちを込めて読むように」との教えがあった。
短いエピソードなので、本編に入る前に本能寺から山崎合戦で明智勢が総崩れになるまでを光秀の「三つの失敗」を軸に解説してから本編へ。
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一、善悪二葉の松〜名刀捨丸の由来※ 旭堂南舟(指導:宝井琴調)
※「赤垣源蔵徳利の別れ」から変更
上方の講釈師の生の高座を聴くのは実は初めて。後の玉秀斎先生、小南陵先生も含め、上方の講釈師がとても個性的で、また笑いの本場だけに可笑しみも強いが、上方落語とは明らかに違う。南舟先生は構成力が優れてよく、この込み入ったちょっと皮肉な運命の悪戯のエピソードを解りやすく読み上げていました。
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一、青の洞門(恩讐の彼方) 田辺凌鶴(指導:一龍斎貞花)
指導した貞花先生の「青の洞門」を昨年10月の津の守で聴いていた。貞花先生は写真の絵解きなども交えてこの些か地味な読み物に変化を与えて聴かせたが、今回の凌鶴先生は習った通りを淡々と語るので些か退屈な高座になってしまったのは残念。ご本人も下がる時首を振っていたように明らかに失敗。まあ初演なのでこういう高座もある。今後の一層の熟成を望む。
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お仲入り

一、熊沢蕃山 廓のご意見 玉田玉秀斎(指導:一龍斎貞心)
南舟先生のところでも述べたが、上方の講釈師は皆さん語り口が個性的で、中でも玉秀斎先生は噺家が講釈を読んでいるかのような言わば「軟派」な講釈。この手の諫言物は些か肩の凝る堅苦しい高座になりがちだが、そんなことを微塵も感じさせない個性的で面白い高座振りでした。
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一、赤穂義士銘々伝〜岡野金右衛門 恋の絵図面取り 神田菫花(指導:一龍斎貞花)
赤穂義士きってのモテ男岡野金右衛門(映画やテレビ時代劇では鶴田浩二、夏木陽介など若い二枚目俳優の持ち役)の活躍で吉良邸の絵図面を手に入れる。そこには吉良邸出入りの大工棟梁の娘との悲恋があった…という赤穂義士銘々伝の中では珍しい色恋が主題のエピソード。
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一、芳沢あやめ 旭堂小南陵(指導:神田松鯉)
俳優としても活躍する小南陵先生は、口跡が鮮やかで力強い。しかしそれ故今回の「芳沢あやめ」では江戸時代の伝説的な女形の柔和な味わいに欠けてしまった。そのためやや一本調子になってやや退屈になってしまった。彼女の骨太な語り口からはむしろ東京で言えば琴鶴先生のように硬派な古典に向いていると思うので、今回はミスチョイスだったかも。

【幹部講釈師による特別(補導)口演】
一、清水次郎長伝〜飯田の焼打ち 神田愛山
いきなり「トムとジェリー」のトレーナーを買ったら菫花先生とお揃いになっちゃった…という近況雑記から「思えばトムとジェリーの最初のアニメは昭和14年…もう85年も追っかけっこをしてる…もう立派な古典だよね」という変化球なマクラからの本編は神田のいえの芸の三尺物の代表作「清水次郎長伝」の最後のクライマックス「血煙荒神山」の発端でもある「飯田の焼打ち」。

一、宇喜多秀家 八丈島物語 一龍斎貞花
これも以前誰か若手で聴いたことがあるが、正直あまりピンと来なかった。江戸へ向かった船が八丈島まで大回りするのがなんだか宇喜多に会うためわざと遠回りしたようで違和感だった覚えがある。今回の貞花先生の高座ではそのあたりは違和感を感じなかった。それは偏に人物描写が素晴らしく情景描写も含めて人間が活きていたからでしょう。さすがの一席、上々吉。
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一、西行 鼓ヶ滝 宝井琴梅
「ここまで12席…もういいでしょ。」ということで、「今日はあまり込み入ってないおなじみのお話を」と「鼓ヶ滝」をサラリと流して御令刻。