30日のしのばず寄席を体調不良でキャンセルしたので、些か間が抜けましたが1月後半の総括です。

2024年1月17日
立川寸志トリ噺五十席@兜町アートスペース兜座
一、(お正月だけど)黄金餅
お仲入り
一、(歳が明けたけど)芝浜
今回の二席は、寸志さんには珍しく「編集」が入らない「習った通り」の二席でした。どちらも家元が凄い高座を何度も披露した晩年の傑作ということで、敢えて編集せずそのままの型を維持したのか。「黄金餅」のマクラで下谷山崎町の説明に都内唯一の「地下鉄の踏切」があるあたり…としたのは鉄の寸志さんならでは。


2024年1月21日
古今亭菊太楼独演会「二丁目十四番地」第六十回@新宿道楽亭


一、無精床 菊正
こういう「軽めの中ネタ」をたくさん持っていると寄席でも重宝されるので、しばらくはこの路線で行ってほしい。
一、三軒長屋(上) 菊太楼
お仲入り
一、三軒長屋(下) 菊太楼
「普段は切らずに通してるんだけど…」と言いつつ鳶頭の家の喧嘩の手打ちが再び喧嘩になるところで一旦切って仲入りを挟む型(五代目志ん生の上下に分けた型の音が残っているが、子息の十代目馬生、三代目志ん朝は切らない型)。やはり慣れないことはするものではないのか、若干演りにくそうに感じたが、各場面場面は躍動感があって楽しかった。道楽亭の会では毎回長講にチャレンジしているが、次回はくっきり上下に分かれる「おせつ徳三郎」にチャレンジとのこと。「花見小僧」「刀屋」を通すのは滅多に聴けないので、次回も楽しみです。



2024年1月22日
しのばず寄席@上野広小路亭


一、初天神 ちづ光
元・林家ひこうきのちづ光さん。基礎ができているので前座とはいえ安定した高座。団子を買うところで手ぬぐいを出そうと袂や懐を探るが手ぬぐいが出てこない…どうやら手ぬぐいを忘れて高座に上がったらしい。客席がどよめきはじめる中「お父っちゃんお財布忘れたの?おっ母ちゃんがくれたお賽銭も置いてきちゃったの?あーあ、こんなことならお父っちゃん連れてくるんじゃなかった。」と本来のサゲにつなげて下りた。こういう機転が利くあたり、この子はタダ者ではない。
一、壺算 茶光
一、私小説落語〜想い出のプリクラ編 羽光
一、粗忽長屋 小圓楽
一、漫談「ひとり球児好児」 新山真理(一矢代演)
かつて「西の千里・万理、東の絵里・真理」と言われた天才少女漫才コンビ。絵里さんが結婚で引退したため真理さんはピンで漫談になった。正月ということで着物姿で座布団に座っての高座はほとんど噺家の感。漫才協会の前会長、事務局長の球児・好児の爆笑漫才をひとりで再現。さすがの切れ味で爆笑。
一、代書 雀々
かつて何度も死にそうになるほど笑った枝雀師の「代書」に令和の御代に出逢えるとは。もう過呼吸寸前になるほど笑った。終演後のネタ出しが「代書」と正しく書かれていたのは笑福亭のちづ光さんのファインプレー(米朝一門はこの噺を作者であり米朝師の師である四代目米團治に倣って「代書」として演じています。終演後に「代書屋じゃないのか」とクレームをつけていたGGがいたが、半可通って嫌ぁねぇ)。

お仲入り

一、無筆の出世 陽子
正月らしく無筆の中間がひょんなことから勘定奉行にまで出世し、中間時代の自分を売った旧主人に「仇を恩で返す」というお目出度い出世譚。


一、くしゃみ講釈 遊雀
今回はサラ口に茶光、羽光、仲入りに雀々師、そしてトリが鶴光師とさしづめ「上方特集」の番組、ということでヒザ前の遊雀師も上方ルーツの「くしゃみ講釈(この噺をもし雀々師や鶴光師が演った場合は「くっしゃみ講釈」になります)」。八五郎の恋路を踏みにじる講釈師を「神田伯山」にしただけでも爆笑になる。「あいつならそのくらいのことやりそう」というのも相俟って講釈のところも爆笑倍増。
一、動物ものまね まねき猫
一、薮井玄意 鶴光
今もラジオのパーソナリティとして大活躍の鶴光師。しかし高座ではラジオのエロオヤジキャラを封印、本寸法の上方落語をキチッと演じています(ラジオパーソナリティとしては「つるこう」ですが、噺家として高座に上がる時は「つるこ」になります。師匠六代目松鶴の旧名「光鶴(こかく)」をひっくり返した名前なので「つるこ」が正しい)。今回は「木津の勘助」とともに上方講釈を翻案した「薮井玄意」をたっぷり披露。六代目松鶴師の飲み仲間だった三代目、その子息で鶴光師と同世代だった四代目と二代の南陵先生が近しかった鶴光師ならではの逸品、上々吉です。