2023年10月1日
Wonder Woman's Works vol.8@高田ばばん場


10月スタートは久しぶりの高田ばばん場。若手女性噺家・講釈師による新作の会。柳亭こみち、弁財亭和泉、林家きよ彦をレギュラーに、若手女性噺家・講釈師が三遊亭白鳥師の作品をメインにさまざまなスタイルの新作を競演するシリーズ。スタート当初は白鳥師自らプロデュースしていましたが、和泉師の真打昇進を機に独立、現在の形になっています。
今回は初登場のいちかさんと佑輔さんを前半に。レギュラーの和泉師ときよ彦さんが後半戦に登場です。

一、マキシム・ド・のん兵衛(作:三遊亭白鳥) 佑輔
9月27日の巣ごもりを喉の故障で休演したので、今日の出演を心配しましたが、回復して無事に出演。今日が復帰戦とのこと。マヌカハニーが効いたのかな?
あまり新作のイメージがない佑輔さんですが、今年に入り創作怪談噺の会を立ち上げるなど新作にも取り組んでいます。和泉師の前口上によればやはりネタおろしで、白鳥作品を手がけるのも初めてとのこと。
多くの女性噺家が手がけるだけてなく、釈界や浪曲界にも広がっている白鳥作品では「入門編」とも言える傑作を丁寧に好演しました。

一、怪談牡丹灯籠〜お札貼り(作:三遊亭圓朝、脚色・台本:神田茜) いちか
近年講釈師の間で手がける人が増えた怪談牡丹灯籠ですが、神田茜先生は前半のクライマックスである「お札はがし」を大胆に脚色。萩原新三郎・伴蔵夫婦側視点からお露・お米側視点に書き換えています。
焦がれ死にして幽霊となったお露とすぐに後を追ったお米の会話から始まる。中陰の間は思いの残った人や物のところに行けるので、お露主従は毎夜新三郎のもとへ「カランコロン」と通い始めるが、なかなか想いが通じない。
一方新三郎は人相見の白翁堂に「死相が出ている」と言われ、お露主従が幽霊であることを知るが、お露への想いは却って募る。
お露がこれ以上新三郎に逢えば新三郎の命が尽きることを知り、自ら身を引く覚悟を決め、お米は伴蔵のもとへ赴くと、私達が入れないようにと新三郎の家の木戸にお札を貼るように百両渡して依頼、伴蔵は依頼通りお札を貼る。
明日で中陰が終わるという夜、彼岸に逝く前にせめて一目、とお露は新三郎のもとへ赴く。「カランコロン」の音を耳にした新三郎はお露を招くが、お札のために入れない。その旨を新三郎に語ると、新三郎は自らお札を引き剥がし、お露主従を招き入れる。
翌朝、新三郎宅の様子がおかしいと近所のものが木戸を開けると、三体の骸骨が転がっており、二体は絡み合って引き離せず、一体は二体の傍らで万歳していた。ああ、二人は彼岸で結ばれたのかと感嘆し、三体まとめて懇ろに弔った…
恐ろしい執念が絡む怪異談を、所々にユーモアを交えてお露と新三郎の純愛物語に仕立て変え、結末も後味をよくした「明るい怪談」になっている。か細くたどたどしい幽霊の会話から始まるが「時間がないから普通に話しましょう」と急に普通の会話になる冒頭から要所要所にギャグが散りばめられる。いちかさんの安定感ある語り口と巧まざるユーモアのセンスで大いに盛り上がった。上々吉。

お仲入り

一、掛け声指南(作:林家彦いち) きよ彦
「茜先生の作品のあとに彦いち師匠の作品を演る…ヒリヒリしますねぇ」といきなりかまして大爆笑(彦いち師と茜先生は結婚していたが2017年に離婚)。本編はボクサーの夢をケガのために諦めたタイ人の青年がトレーナーに転向したがボクサーへの声掛けがうまくできず、ジムの会長に街へ出て修行してこいと言われて新宿のあちこちで「カンバッテ」と応援するが…という彦いちワールドのドタバタ劇。師匠の作品だけに非常によい出来だったが、きよ彦さんは自作自演が本領なので、自作が聴きたかったな…

一、任侠流れの豚次伝〜第二話「上野掛け取り動物園」(作:三遊亭白鳥) 和泉
上野動物園の動物たちに仮託されてはいるが、これは間違いなく21世紀の人情噺。なので高座で和泉師も言っていたが、70年後の世紀末には「白鳥物」として古典並の地位を獲得するのではないか…と思えるほどに白鳥作品は「豚次伝」のような大河作品も「マキシム〜」のような一席物も完成度が高い。白鳥物は現在療養中の鯉栄先生を皮切りに釈界、太福先生を皮切りに浪曲界と今や関東話芸界全体に広がっている(不勉強でわからないが、上方にも広がっているのだろうか)。
白鳥物でも屈指の大作「豚次伝」は女性噺家だけてなく三三師までも手がけるくらいになっているが、これは取りも直さず圓朝物をこなせるくらいの腕が要求されるということ。新作専門でやってきた人よりそれこそ三三師レベルの古典の権威者の方が、というよりある程度古典の素養を身に付けた演者に向いている。
その点では新作メインの和泉師にとって「豚次伝」はある意味試練と言えるかもしれない。今夜の高座も荒削りな部分も若干あり、今後の熟成に期待といったところ。