今年もクラシック音楽界はコロナ禍でコンサートの中止や延期、出演者の代演や内容変更などが相次ぎました。感染状況が改善された今年後半からは大規模のコンサートもポツポツと再開されましたが、欧米では依然コロナ禍の猛威収まらず、海外からの来日公演や客演は相変わらず不安定なままでした。年末に来てオミクロン株が発生したことで、来年前半もこの状況が続くことになりそうです。

音盤系も最新録音より旧譜の復刻・再発や代演コンサートのライヴ盤などが中心で、昨年に引き続き変則的でした。そんな中でも目立ったトピックごとに今年の音盤を回顧してみたいと思います。

①来年創立50年、新日本フィルの録音続発
1972年に旧日本フィルの解散・分裂に伴って小澤征爾の提唱で結成された新日本フィルハーモニー交響楽団は、2022年に創立50年の節目を迎えます。昨年・今年は団員・事務方とも世代交代期に加え、音楽監督の上岡敏之氏がコロナ禍で帰国不可となり、公演がすべて代演となるなど厳しい状況ですが、次の50年に向けての布石が始まっています。
そんな中、上岡氏指揮のライヴ録音や代演が名演となった今年の定期公演のライヴ、さらにはボッセ先生によるベートーヴェン交響曲全集、そして新日本フィルの歴史を語る上で絶対に外すことのできない朝比奈隆指揮で4年がかりで完成された「ニーベルンクの指環」全曲のライヴ録音など数多くの音盤がリリースされました。今日12月29日は朝比奈忌ということで、今年は「指環」を聴きながらこの回顧を打っております。
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン:交響曲全集
ゲルハルト・ボッセ(指揮)

ドミトリー・ショスタコーヴィチ:交響曲第8番ハ短調 Op.65
井上道義(指揮)
2021年7月3日、サントリーホールでの定期演奏会のライヴ。ロシア人指揮者がコロナ禍で来日不可となり、井上さんが代演。これが名演となり、現在進行中のショスタコーヴィチ交響曲全集の第5弾となりました。

アントン・ブルックナー:交響曲第7番ホ長調WAB107(ハース版)
上岡敏之(指揮)

リヒャルト・ワーグナー:楽劇「ニーベルンクの指環」(全曲)
朝比奈隆(指揮)

② ライト・ミュージックの充実
ライト・ミュージックとは、狭義にはイギリスで20世紀に主にラジオ放送用に創られた、クラシック編成のオーケストラによる大衆的な小品音楽ですが、広義にはアメリカのポップス・オーケストラのために書かれた作品も含まれます。日頃ベートーヴェンだブルックナーだマーラーだショスタコーヴィチだと聴き倒していると、時折箸休め的にライト・ミュージックが無性に聴きたくなるものですが、本格指向の強い日本ではなかなかいい音盤が出ませんでした。今年になってナクソスがブリティッシュ・ライト・ミュージックのシリーズを開始、現在アディンセル、ビンジ(ビンジュ)、エリック・コーツの作品集がリリースされています。また、レナード・スラットキンによるルロイ・アンダーソンの管弦楽作品全集というナクソスならではのBOXもリリースされました。
エリック・コーツ:作品集1
スロヴァキア放送交響楽団
エイドリアン・リーパー(指揮)
2は来春リリース予定。

ルロイ・アンダーソン:管弦楽作品全集
BBCコンサート・オーケストラ
レナード・スラットキン(指揮)

ダンゾン(アメリカ管弦楽作品集)
NHK交響楽団
原田慶太楼(指揮)

③トランペットの新星現る
ヴィーン出身のセリーナ・オットによる協奏曲とリサイタルアルバムが登場しました。セルゲイ・ナカリャコフ以来の天才のデビューです。協奏曲アルバムではアルチュニアンが特に素晴らしく、リサイタルアルバムではグリエールの協奏曲(原曲:コロラトゥーラソプラノ協奏曲)が素晴らしいです。

近現代トランペット作品集
20世紀のトランペット協奏曲集
セリーナ・オット(トランペット)

④今年生誕100年―ピアソラとアーノルド
今年はアストル・ピアソラとマルコム・アーノルド卿、そしてアルフレッド・リードの生誕100年祭でした。しかし、コロナ禍で記念ムードがさっぱり盛り上がらず、特に吹奏楽界と縁が深いアーノルドとリードは吹奏楽界がコロナ禍で低迷したこともあり、寂しい生誕100年祭になってしまったのは大変残念でした。
そんな中、ピアソラとアーノルド卿のアルバムはいくつかいい音盤がリリースされました。

ラテンアメリカ・ダンス―サクソフォンのためのラテンアメリカ作品集
(ピアソラ:6つのタンゴ・エチュード収録)

アストル・ピアソラ:タンゴの歴史〜フルートとギターのための作品集
瀬尾和紀(フルート)
ビセンテ・ロペス(ギター)

サー・マルコム・アーノルド:交響曲・舞曲全集
アイルランド国立交響楽団(交響曲)
クィーンズランド交響楽団(舞曲)
アンドリュー・ペニー(指揮)

⑤生誕90年、外山雄三
外山雄三先生は、生誕90年、今もご健在であり、指揮、作曲両面でご活躍を続けておられます。生誕90年を記念して、現在育成に力を入れている大阪交響楽団との作品集がリリースされました。今までありそうでなかった「ラプソディ」の自作自演も収録されています。
外山雄三:管弦楽作品集
大阪交響楽団
外山雄三(指揮)

⑥今年目立った新譜5選
ニューイヤーコンサート2021
ヴィーン・フィルハーモニー管弦楽団
リッカルド・ムーティ(指揮)
今年のニューイヤーコンサートは、コロナ禍のために史上初めて無観客の開催となりました。そのため限りなくセッションに近いコンディションとなったライヴ録音は非常に録音がよく、オーストリア政府の特例で入国したムーティの気合いの籠もった指揮もあって素晴らしいアルバムとなりました。

チャールズ・アイヴズ:交響曲全集
ロサンゼルス・フィルハーモニック
グスターヴォ・ドゥダメル(指揮)
メータ以来の快進撃のドゥダメルとロサンゼルス・フィルハーモニックが素晴らしいアイヴズ全集を世に出しました。

バレエ・リュッス〜ストラヴィンスキー:三大バレエ
ル・シエクル管弦楽団
フランソワ・クサヴィエ・ロト(指揮)
作曲当時の楽器を使用してドビュッシーやラヴェルの作品を録音しているル・シエクルとロトによるストラヴィンスキーの三大バレエ。譜面もすべて初演当時の原典譜使用で、衝撃的だった初演の音を再現しています。

ニューヨーク・フィル名演集
ニューヨーク・フィルハーモニック
ジュゼッペ・シノーポリ(指揮)
シノーポリがニューヨーク・フィルと遺した熱演が集成されました。

ヨーゼフ・ハイドン:交響曲集(愛称つき交響曲全集)
アカデミー・セントマーティン・イン・ザ・フィールズ
サー・ネヴィル・マリナー(指揮)
長らくCD化が待望されていたマリナー卿のハイドンが2021年末になってついにデッカのバジェットレーベルである豪エロクァンスからCD化されました。