座・高円寺で韓国現代戯曲ドラマリーディング「黄色い封筒」を観る

日本と韓国の演劇交流促進のために設立された日韓演劇交流センターが、隔年ごとに東京とソウルで開催している、お互いの国の現代戯曲のドラマリーディングの第9回

現代韓国演劇界をリードする3人の韓国人劇作家の三作品上演のひとつ

作者のライフワークともいえる労働運動の立場を踏まえ、セウォル号事件も扱った「黄色い封筒」

 

久方振りのト書き読み手付きリーディングだったが、アフタートークで作者イ・ヤングも言っていたとおり、キャストの動きや譜面台を置く位置を変えることで演者と客席の「間」、演者同士の「間」を変化させ、その距離感を表す演出は良かった

また、韓国のでの上演(リーディングではなくストレートプレイ)の際には小劇場ゆえなしえなかったという、高所籠城を朗読劇らしからぬ実際に高い所へ上ることで描いたラストシーンも印象的だった

因みに日韓演劇交流センターのホームページを遡ったら、演出公募条件に演出料3万円とあった

 

キャストもすべてオーディションだったようだが、ジホ役の宮下泰幸とビョンノ役の長瀬ねん治が際立っていた


アフタートークがなかなか充実していた

演出の中野志朗はセウォル号事件に拘泥し過ぎていたが(演出自体にはそれが出ずに良かった)、セウォル号の黄色いリボンを「免罪符にしてはいけない」と舞台に上がる前に外したと言ったイ・ヤングと、常に“REMEMBER 2014.4.16”の刻印のあるブレスレットをはめているというプロデューサーの、まったく異なった見方が興味をひいた

また、その中でようやく「黄色い封筒」が特別なものではなく、単なる日本の茶封筒であること、そしてそれは給料袋であると同時に解雇通告が入った封筒のメタファであることが分かった

翻訳の石川樹里が通訳したが、さすがにトップレベルだった

 

作:イ・ヤング
翻訳:石川樹里
演出:中野志朗(文学座)
演出助手:忍久保美佳
出演:
江澤蛍
田崎哲也(ambrosia)
橘麦(e-factory)
長瀬ねん治
馬場太史(劇団俳優座)
日沖和嘉子
宮下泰幸
柳生拓哉(演劇集団円)

 

【あらすじ】
エスエム器械労働組合事務所。組合は会社に対するストを暴力的に終えさせられた。組合員のビョンノもジホも、ストに参加したことで会社から多額の賠償金を負わされている。ガンホはストに参加せず、心に自責の念と深い後悔を抱える。 ヨンヒは子育てと運動の間で引き裂かれている。会社側は容赦なく労働者たちを分断し、運動は引き裂かれる。そこにセウォル号沈没の知らせが入る。当初は乗客は全員が無事という報告がなされるが、しかし……。
分断を乗り越えるために、労働者たちの団結は可能なのか。

 

李羊九(イ・ヤング)

劇作家、演出家、劇団海印主宰。演劇実験室恵化洞一番地五期同人。1975年、江原道寧越生まれ、忠南大学法学部中退、中央大学演劇映画学部演出科、同大学院卒業。幼少期を山深い集落で過ごす。この時、多目的ダムの建設により、数年にわたり村人が強制移住させられ、集落が水没する過程を目撃する。後に、これが一種の国家暴力であることに気付き、創作の原点となったという。学生時代には学生運動、労働問題にも深くかかわった。2008年、水没した故郷の集落を舞台にした『ビョルバン』が新春文芸に当選して劇作家・演出家として活動をはじめる。米軍基地の町で働く売春女性たちを描いた『七軒峠』(ソウル演劇祭優秀作品賞、2013韓国演劇ベスト7選定)、高校生たちの不安な心理を描いた『廊下で』(2014評論家協会が選ぶベスト3選定)、労働問題を扱った『黄色い封筒』(レッドアワード受賞、2015韓国演劇ベスト7選定)など、社会や歴史の中の弱者に焦点をあてた作品や、人と人の絆について問いかける作品が観客の共感を呼ぶ。2017年第4回ユン・ヨンソン演劇賞受賞。執筆・演出活動だけでなく、パク・クネ政権における文化芸術界ブラックリスト事件を調査する「真相調査および制度改善委員会」の一員として、真相調査とブラックリスト白書編纂に積極的に取り組んだ。