年末に大掃除をしてたとき、ずいぶん昔の文庫本が出てきました。

 


 

サンリオSF文庫『ハルシオンローレライ』です。
買うだけ買って読まずに仕舞い込んでいた・・四十年近く前の本・・それを今さら読み終えました。


サンリオSF文庫は1978年から刊行された文庫で、ライバルのハヤカワ文庫より少しオサレな感があったかな・・?でも商業的には失敗したみたいで、その後十年ほどで姿を消しました。
内容がハードなSFが多く、真にSF好きの方々は満足したのでしょうけど、ワシのような凡人でオツムの少々弱い人間には敷居が高かった・・のかも
読んだことのあるサンリオSF文庫は『影のジャック』という作品ぐらい・・前述したように『ハルシオンローレライ』は購入するだけ購入してずっと押し入れの奥に眠ってました。





『ハルシオンローレライ』(原題ハルシオンドリフト)は『宇宙飛行士グレンジャーの冒険』というシリーズの第一作です。

ハルシオンドリフト― それは暗黒星雲の一つ―
その内側では放射能を含んだ塵が渦巻き、絶えず星嵐が巻き起こっている。内部に星(岩塊?)の存在は確認されているが、時空が歪んでおり、外側からの干渉や観測は極めて困難な世界だった。

そんなハルシオンドリフトの何処かで80年前から現在に至るまで遭難信号を発信し続ける遭難船の存在が今でもあらゆる星間世界で語り草になってる。遭難船―『ロストスター号』は莫大な価値の財宝を積んでいたという話がまことしやかに囁かれていた。
これまで多くのトレジャーハンターや様々な組織・企業が『ローレライの歌声』とも言うべき遭難信号に惑わされ、ドリフト進行に挑んだものの成功者は未だに現れず、悲劇的な結果を迎えるばかりだった

  

 
宇宙飛行士グレンジャーはフリーの自由貿易商人で、惑星間を飛び回り、辺境の星々で様々なモノを仕入れては商売をするほか、物品の運び屋や、時には依頼主の求めるモノを少々強引に入手する、荒っぽい仕事などもこなしたりしていた。

ある時・・・暗黒星雲『ハルシオンドリフト』の近くを航行していた最に、ドリフトの放射能を含んだ塵の影響で宇宙船が制御不能に陥り、そのままドリフトに引きずり込まれ、ドリフトの縁のどこか・・海図にも載ってない名も無き星に不時着した。宇宙船は修復不可能で救助の手が届く可能性も極めて低かった。同乗していた仲間も亡くなり、話し相手はグレンジャー同様この地で孤独にさまよっていた精神寄生体『風』だけだった。

グレンジャーは二年もの間、『風』と共に絶望的な遭難生活を続けていたのだが、運良く遭難信号をキャッチされ、なんとか文明世界に帰還することが出来た。

しかしグレンジャーを救出したのは巨大貿易企業カラドックの船で、救出に大きな回り道をしたため仕事で損害が発生したとされ、労力と費用も含めて、莫大な賠償金を請求されてしまった。
もちろん仲間も宇宙船も失ってしまったグレンジャーにそんな大金を払う当ては無い。

途方に暮れるグレンジャーだが、この最悪の状況を打開できる仕事の話を持ちかけられる。

現在建造中の宇宙船・・地球文明と異星人文明が提携し、これまでの宇宙船の概念を覆す画期的なものを完成させたのだという。この船の処女航海のための腕利きパイロットを探しているとのことだ。
何しろ未知のシステムでの航行なので予測不能な危険やトラブルが予想されるため、パイロットはエリート宙空士みたいな連中ではなくグレンジャーのような辺境宇宙で場数を踏んだ、たたき上げのパイロットが望ましい・・・ということらしい。
宇宙船についての説明は荒唐無稽としか思えない話だし、どう考えてもヤバそうな匂いがする・・・・大金を肩代わりするというのだから超ハイリスクな仕事なのも当然と言えば当然なのだが―
寄生体『風』は喜んで引き受けるべきだと口を挟んでくるが、どう考えてもおいそれと承諾できる案件ではない・・・しかし他に金を返せる当てはないし

迷いつつも彼はとりあえず新造宇宙船とやらを見学することに・・・そして船を目の当たりにした瞬間衝撃を受け、仕事の依頼を前向きに検討することとなった。


船の名は『かんむり白鳥』・・フーデット・スワン― その鳥のような優美な姿にグレンジャーは一瞬で魅了されてしまった。

外殻は強靱な金属に覆われているが、その内側は様々なタイプの合成樹脂が多用されているという。そして有機金属の神経細胞が機体の縦横に走り、関節や筋肉まで備えている・・まさに生物だ。
パイロットは操縦端末である『フード』を装着することによって船の神経系に繋がり一体化することになる・・・・船体を体の一部として自在に動かし、知覚することが出来るのだ。そして宇宙空間であれ大気圏内であれ、超高速でもそれこそ鳥のように自由自在に飛び回ることが可能・・なのだそうだ。

グレンジャーその話がホラでなくすべて真実だと直感的に悟った。こいつは・・・魂を売ってもいいほどの価値がある―


仕事を引き受ける気になったグレンジャーだったが、処女航海の行き先を聞いてまたしても愕然とする。なんとあの暗黒星雲ハルシオンドリフトの深部に突入し、ローレライの歌声を発し続けている『ロストスター号』を発見・確保するというのだ。
どんなに高性能な船であろうとハルシオンドリフトの内側を航行し、深部まで進行するなど自殺行為以外の何物でもない・・グレンジャーはそれをよく心得ていた。しかしこの船であればあるいは・・・


かくしてグレンジャーは即席の混成部隊として集められた4名と共に『かんむり白鳥号』を駆って暗黒星雲ハルシオンドリフトへと赴くのでありました





ハルシオンローレライがサンリオSF文庫から発刊されたのが1980年・・・その頃購入したんでしょうね。ワシがまだ若造の頃です。
当時スターウォーズが公開された時代で、宇宙ものSFはよく読んでました。今でもスペースオペラっていうのかな?
あまりハードな本格的宇宙SFは読まなかったけど、ハヤカワSF文庫のキャプテンフューチャーとかスターウルフとかは好きでした。朝日ソノラマ文庫などの宇宙を舞台にしたジュブナイルもよく読んだ・・クラッシャージョーとか宇宙海賊船シャークとかハイスピードジェシーとか    なんかいろいろ懐かしいです。
ハルシオンローレライは表紙絵に惹かれてつい購入したのですが、文章が取っ付きにくく(あと文字がやたら小さい)数ページで挫折・・押し入れの奥に眠ることになったのです。

何十年の時を経て読み終えた感想ですが―  ま、そこそこ面白かったです。(やはり文字が小さい・・現在のGGYの自分の眼にはさらに苦しい)とくに作品の目玉である有機宇宙船『かんむり白鳥』のアイデアおよび絵師による表紙のビジュアルは秀逸ですね



このハルシオンローレライに強く影響を受けたと思われる漫画作品も思い出しました。もしやと思って押し入れの奥の保存漫画を探したら・・あ・あ・ありました。捨てたり売ったりしてなかった・・




 

これです・・弓月光先生の『トラブル急行(エクスプレス)』  刊行されたのは1983年ですね。弓月先生がまだ少女漫画誌で活躍されていた頃の作品です。多分読むのは20年ぶりくらいです。
弓月光先生と言えば青年誌向け漫画がつとに有名ですが、私は少女漫画家時代の先生の作品が大好きでした。『エリート狂走曲』が一番のオキニです

宇宙飛行士養成学校に通うアルコ・ファンタンは跳ねっ返りの巨大貿易会社社長令嬢。宇宙飛行士となって運送会社を興し、憎き父親の会社を潰すという野望を抱いていた。
しかし成績は芳しくなく留年が決定、父親の元につれ帰される危機を迎えていた。思いあまった彼女は、相棒の異星人ロップと、新入生で宇宙船操縦経験のある沢村騎士を強引に巻き込んで宇宙船を強奪し逃亡を図った。
なんとか逃亡に成功したものの、追っ手から逃れるため最悪の状況下でハイパードライブを決行したため、遠方の見知らぬ星系に放り出されてしまった。あげくにメインコンピューダが破損したため現在地を知る術も無くした。
しかたなく彼女らは船の調整のため一番近くにあった惑星に着陸する。
その惑星には超古代文明の廃墟が広がっていた。調査の結果、廃墟は約二億年も前のもので、まだ地球文明圏の誰にも知られていない…大発見だった。そしてその文明の科学技術は現地球文明を遙かに凌駕する、とてつもなく高度なものであることは明白であった。
完全に死に絶えていると思っていた廃墟だったが、散策中のアルコが不用意に触れた『スイッチ』?が作動し、地下から巨大なモノが姿を現した。それは地球人には『折り鶴』の形に見える古代文明が造り上げた宇宙船だった―




この折り鶴型宇宙船というのが、古代文明が驚異的なバイオテクノロジーで造り上げた生物『有機宇宙船(オーガンシップ)』なんですね。外板は金属ではなく、ものすごく頑丈なキチン質みたいなモノだそうな。
操縦者に合わせて自在に姿を変えることが出来るインターフェイスシステム(トラブル急行内では人間の女性の姿)に命令すれば船の全操作はなんでもやってくれる楽ちん仕様。


この宇宙船を駆って三人は宇宙を舞台に大暴れ・・・とまあ、そんな話なのですが

物語はコミカルですがしっかりSFしてます。今読んでもメチャクチャ面白い。しかし、1980年代の少女漫画誌ではなかなか受け入れられなかったのかも・・コミックスは2巻で終わってます。
少年誌に発表されていたらもっと巻を重ね、漫画史に残る名作になっていたかもしれません。