百鬼夜行シリーズ 『鵼の碑』・・やっと読み終えました。

寝る前にちびりちびり読んでたし・・なんだか人間相関図が複雑で判らなくなり、読み進めては少し戻って読み直しなんてことをしてたし・・サイドストーリーの本を引っ張り出して平行して読んだりと、やたら時間かかってしまった。

今回の作品はいつもと同じく長編なのではありますが、基本的に『何も起きてはいない』お話なので、ストーリーが進行するにつれて次々猟奇殺人が起こる・・『魍魎の匣』や『鉄鼠の檻』のような読み進めると背筋がぞわぞわする路線とは少々趣が違っているかと思います。

日光を舞台にして、二十年くらい前に起きた殺人事件と死体消失事件、それに関わる軍の極秘研究を巡る物語です。
それらを『猿』『虎』『狸』『蛇』『鳥』を象徴する登場人物それぞれの視点で、過去に一体何があったのか・・を探求していきます。

少々不満だったのは、百鬼夜行シリーズでは恒例だった・・京極堂が鳥山石燕の該当妖怪の画図をひろげて解説するシーンが抜けてしまっていること(これは『邪魅の雫』でもそうでした)
あのシーン好きだったんですけどねえ・・まあヌエは比較的知名度あるし、特に説明する部分がなかったのかなあ


あと中禅寺秋彦の妹、中禅寺敦子ちゃんが出てこないのもちょっとさびしい・・まあ、彼女はこの時期は鬼退治で忙しかったみたいですからね・・・

物語としては・・
最初書いたように基本『何も起きてはいない』・・・・レギュラーメンバーが絡んでからは殺人が起こるわけでもなし、現在進行形のとんでもない陰謀を目の当たりにするでもなし
肩透かしとか退屈とか考える人もいるかも


しかし最後の最後で京極夏彦ファンには衝撃的な展開が待っていました。


『巷説百物語』とのクロスオーバーです。




『巷説百物語』とは『百鬼夜行』とならぶ京極夏彦氏の人気シリーズ―


江戸の末期・・詐欺まがいの手口で人を誑かす小悪党『小股くぐりの又市』を中心とした仲間たちが、人の世の哀しみ苦しみを鎮めるため暗躍を描く物語です。
彼らは世の中のもめ事困りごとや、晴らせぬ恨み・困難な問題・届かぬ想い・果たせぬ願い・叶わぬ望みを叶えるという仕事を金で請け負う稼業なのですが、化け物を使役するという(正確には化け物伝説を利用した欺瞞)、少しばかり変わった手法を用います。

なぜそんな手法を使うかと言えば・・
武家や豪商をはじめとする権力者や、複雑な人間関係の最中にある人間を相手にする場合もあり、時にはそいつらをケチョンケチョンに懲らしめたり、最悪殺めなければならぬ場合もあります。
そうなると、逆恨みとか、武家などでは敵討ちがどうのなどと厄介な問題が生じます。下手な方法を用いればこちらの身が危うくなるだけでなく、関係のない者たちまで災厄に巻き込んでしまいかねません。
そこで、すべて怪異・化け物の仕業に見せかけるという仕掛けを施して、恨み・怒りの矛先を反らし、事態を有耶無耶にし世間を煙に巻く・・と言う手法をとっているのです。


又市以下のメンバーは・・人形遣い 変装名人 幻術使い 爆薬の専門家 小さなものから大がかりなものまで、様々な舞台道具やからくり仕掛けを造る技術者など、くせ者揃い
彼らはそれぞれの技能を駆使し、化け物や怪異現象をこの世に現出させて八方塞がりのトラブルを丸く収めるべく奮闘します。



『巷説百物語』と『百鬼夜行』は同じ世界の過去と未来という関係にあり、これまでにも百鬼夜行シリーズやサイドストーリーにおいて『巷説百物語』に関連するエピソードがいくつも語られていました。
そしてこの『鵼の碑』において、ついに又市一味『化け物使い』の関係者(後継者?)と『憑きもの落とし』中禅寺秋彦とが邂逅を遂げたのです。
京極夏彦ファンの間では大きな話題になっていることでしょうね。

この次の憑きもの落としの活躍は東北が舞台になるそうです。『鵼の碑』でかなり印象的だった女性登場人物が青森出身だとのことなので、彼女がまた再登場する予感が・・・それに又市後継者もひょっとして・・・
楽しみではありますが刊行は二十年くらい先かも・・




さて、『化け物使い』と『憑きもの落とし』との直接交流は京極氏の小説においては多分『鵼の碑』が初めてかと思うのですが(もしかしてワシの知らない作品がある?)、映像化作品ではすでに実現しています。それは2000年にWOWOWで制作された全四話のドラマの内の一つ『福神ながし』において―

今回はついでなので、この『福神ながし』を紹介したいと思います。

 


福神ながし


2000年  WOWOW制作  監督: 酒井信行 原作・脚本: 京極夏彦
キャスト    田辺誠一,遠山景織子,佐野史郎, 火野正平, 杉本哲太, 船越英一郎, 岸部一徳, 

ドラマ全四話のうち、三話は小説の原作がありますが、この『福神ながし』だけはオリジナルストーリーです。

原作小説の又市たちは人死にを嫌い、極力誰も殺さぬ方向で活動しますが、ドラマではけっこう人を殺めます。ドラマ用だからなのか、少々世界観が違うんですね・・『必殺』に近い感じです。
ビジュアル的に映えるような演出もいろいろ加えられおり、とくに『山猫廻しのおぎん』さんの使う浄瑠璃人形はものすごく印象に残り秀逸です。


手に入れた者に莫大な富と福をもたらすという『箱』

『箱』の所有者だった両替商・叶屋幸左衛門は繁栄を手にしていたが、あるとき使用人だった富蔵に箱を奪われてしまう。
箱を手に入れた富蔵は、豪商・福乃屋の主人となり隆盛を極め、金のために人道を外した行為も繰り返していた。
そしてそれとは対照的に箱を失った叶屋幸左衛門は衰退の一途をたどっていった。

幸左衛門は、報酬次第であらゆるもめ事を請け負う『小股くぐりの又市』に箱の奪還を依頼する。
又市とその仲間たちは怪異を操り富蔵と用心棒たちを翻弄し箱を奪い返す隙をうかがうのだが―

そんな又市たちの前に、富蔵に雇われた武蔵晴明神社の宮司にして憑きもの落としの陰陽師・中禅寺洲斎が立ちはだかる―



ま、最初はこのように対立するわけですが、最後には共闘になります。

 







『鵼の碑』の中でかつて中禅寺秋彦の曾祖父が化け物使いと交流があったとの記述がほんのちょっと出てきますが、それがこの中禅寺洲斎みたいです。

そのうちサイドストーリーなどでこのひいお爺ちゃんの活躍が読めるかもしれませんね。