以下、ネタバレあります

物語の顛末を楽しみたいかたは

お読みになるか自己判断ください


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以下、2015年12月に

「なぜ、三歩さんは死んだのか?」の

タイトルでアップした記事です


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「岳 みんなの山」は石塚真一さんが

03年~12年に9年にわたり連載した漫画



当初は不定期連載でしたが

07年からは定期連載になっています


コミックとしては18巻にまとめられ

11年には小栗旬さんを主役に

実写映画も公開されました



山岳遭難救助を題材にしており


山の素晴らしさ、厳しさ

登山するひとびとの人生、

命の重さなどもテーマとなっています




主人公の島崎三歩さんは山岳救助のボランティア


警察などの組織には属しておらず


おもに長野県の北アルプスでテント生活をおくりながら

要請に応じて救助をしています



こんなふうに間に合うこともあれば…




ちからが及ばず

家族の死別に直面することもあります



生きるか死ぬかばかりの

漫画ではありませんが


生死にかかわるシーンも

ちょいちょい登場します


普通のスポ根、恋愛などの作品より

重いシーンがばんばん出てきます



そんなわけで

作品の中で

三歩さんにこんなセリフがあります


山に捨てても怒られないもの

ゴミと命以外の全部



この三歩さんのセリフは

作品のキーになるセリフです



三歩さんは救助におもむくと

対象者が生きていても、

重症でも、

他界していても

こんな言葉を投げかけます


「良く頑張った」




作者の石塚さんはアメリカに5年間留学した経験があり

海外でいうところの 「Good Job」 と同じように

声をかけさせたところ

決め台詞になっていったそうです



三歩さんは

超人的な体力と山の経験、勘で

多くの救助に成功しています

(失敗すること、手遅れのことも多々ある)



これは珍しく登場した肉親・お姉さんとの会話

山の仕事は怖いけど

「それと向き合わないのはもっと怖い…かな」



そんな調子で

コミックは1~15巻は主に1話完結(稀に数話完結)の

ストーリーで展開し

ラスト3冊の16~18巻は連続性のある物語になります


あまり知られていないようですが

17、18巻は横並びにすると

背景がつながっています





ちなみに巻末をみると

16巻はビッグコミックオリジナル2011年10号~18号

17巻は同2011年19号~2012年3号

18巻は同2012年4号~12号

それぞれ9話づつ収録


ビッグコミックオリジナルで27号分

2011年10号~2012年12号だから

フィニッシュに向けて1年以上連載したことになります


これは

「岳」という作品の

それまでの傾向(1話完結)からすると

かなり特異なことで

意図的に行われたと解釈した方がよいと思います



この1年以上かけた

終盤の連載で作者の石塚さんは


主人公の三歩さんに

ローツェの南壁単独登頂に挑戦させます


このローツェは世界第4位の高さで

エベレストのそばにあります


そしてその挑戦の途中、

エベレスト登山に挑戦していた

友人のパーティー(グループ)を助けに向かい


必死の救助で何人かの救助に成功するものの

二重遭難となり

その後の安否は明確には描かれていませんが

三歩さんは死亡した可能性が高いと考えられます



このエンディングについては

賛否両論というよりは

否定派が多いようです



それまでウルトラマンのように

さっそうと人々を救ってきて

山で生命を捨てちゃいけないと言っていた

あの三歩さんが

あっけなく死んでしまったように

描かれていたからです



私のカミサンも

この終わり方はいただけないと

NGを出しています



私も気持ちは分からなくもない

やはり、三歩さんには

元気に北アルプスに戻ってきて欲しかった

さて

この作品は映画にもなりました

時期としては2011年5月に公開されています





映画そのものはもう少し前の段階で

完成したでしょうし

脚本などは撮影前には出来ていたでしょう

(公開はGWで、夏季の日本アルプス旅行も狙っていた?)

(JR長野駅でこの身大パネルを私は目撃しています)



そう考えると

2010年くらいには

映画の骨子は出来ていたでしょう



映画は主役・小栗旬さん、

ヒロイン役・長澤まさみさんなど

それなりに力が入っており

美しい山の景色なども収められています



この段階で、

岳、島崎三歩さんは

日本でもっとも知られた山岳キャラとなりました



ときは団塊の世代が定年退職となり

健康的なレジャーとして

登山が社会的に認知されはじめていました



たぶん

そういう需要も見込んで

映画「岳」は作られたし

漫画「岳」もタイアップし

さらにテレビなどでも告知が打たれていました



また「岳」とは関係なしに

テレビ雑誌などでも

登山、キャンプなどの企画特集は

非常に多い

(グレートトラバース、日本百名山番組などもそれ)




山を訪れるひとが増えれば

当然、怪我するひと、遭難する人も増えます


2014年の山岳の遭難者、遭難事故は

10年前にくらべて66%増加しているそうです






キャッチーな登山キャラ、

山岳PRキャラとして

三歩さんや作品が独り歩きしていく



山ガールなんて言葉も

流行りはじめる

(wikiによると2009年ごろから広まった言葉)



健康増進とか

自然に親しむのであればいいけど

一方で事故も発生している







映画や漫画の

つくられたイメージで


登山は簡単

山は楽しい

という

お気軽、軽薄な面だけが強調され


それにより

ちゃんとした準備、装備をせず

入山したひとたちが遭難したり

救助隊らに迷惑をかけているなら


とんでもないと

思ったのかもしれない



2014年(連載終了2年後)に新聞掲載された

インタビューで最後に

石塚さんは「登山は自己責任」と言いきっています






漫画や映画などの

イメージ先行で

気軽に登山をされて

なにかあっても責任は持てない


三歩さんは架空の人物であり

そんなに都合よく

誰かが救援してくれたりしない

「山と渓谷 2012年9月号」

山の新常識、みんなの山「岳」の世界



「岳」11巻

2010年3月発行




道具や情報をちゃんと重視し、

きちんとした計画、

きちんとした装備をして

登山をしてほしいという思いが

どんどん強くなっていったのではないだろうか



少し話はずれるけど

「ブルー・ジャイアント」で

石塚さんは主人公に入念に

自分の楽器をメンテナンスさせています



そういう道具の手入れも

事前情報も入れずに

登山をするような流行を

心配したのかもしれない



漫画が売れ、

知名度が高まり、

映画などもつくられることで



その思いが

どんどん強まっていったのではないか



少なくとも

三歩さんのローツェ挑戦は

そういう時期からスタートしています



2010年は山岳遭難が

ぐんと伸びた時期でもある



そして

無理や無茶をしたら

あの島崎三歩だって

死んでしまうというメッセージを

ショッキングなエンディングによって

読者に投げかけたのではないかと

私は思うのです



ちなみに

三歩さんはローツェ挑戦前、

警察山岳救助隊の知り合いに

北アルプスの雪崩データなどが記された

ノートを残しています



三歩さんだって

無鉄砲に動いていた訳じゃない

そういうデータ、蓄積のもとで

救助をしていたのだとしています



作者の石塚さんは

もともと漫画家になろうとしていたのではなく
影響力の大きいコミュニケーションツールとして
漫画を選んでいます



島崎三歩というキャラクターを

どうするか…というより

どうすることで

安全な登山、計画的なレジャーが行われるのか

それを考えて

ああいうエンディングになったのかな…と私は思います