勝ち組はトヨタ自動車と三菱UFJ銀行---2013年3月期決算をランキング化して探る主要50社の | ブー子のブログ

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5月21日(火)8時5分配信



 アベノミクスの追い風を受けて圧倒的な勝ち組になったと言えるのは、トヨタ自動車と三菱UFJ、三井住友、みずほのメガバンク3グループだろう。NTTを始めとする通信と、未上場のマンモス企業・日本郵政が不況抵抗力の強さを見せたほか、証券も活況な株式市場に支えられて勢いを取り戻した。

 しかし、「寄らば大樹」のはずの大手企業は総じて減益決算で、リーマン・ショック前の水準を回復できていない。1昨年、資源ブームに沸いた商社は伸び悩み、小松製作所や東レといった老舗の名門メーカー、成長分野と期待されるゲームが減益決算を余儀なくされた。

 何よりも深刻なのは、長年、輸出をけん引してきたパナソニックとシャープの電機2社が今回も気の遠くなるような赤字を垂れ流し、東京電力を始めとした電力は存亡の危機から抜け出せないことだ。明るい兆しはそれほど見られない。


*** 2013年3月期決算をランキング化してみた ***
 ここ数年、一般の方から「一番儲かっているのは、どの企業ですか」という質問を受けることが増えている。

 米国でも上場している超大手企業が競うように米国会計基準の採用に踏み切り、伝統的な日本基準の「経常利益」を公表しなくなったうえ、銀行の収益状況は一般の企業と分離して銀行業の特性を反映し易い「業務純益」を使った業界内比較を重視する傾向が強まっているからだ。このため、大手紙をみても、横断的に企業の実力を理解することが難しいというのである。

 そこで、筆者は今回、独断と偏見で、主要とみられる50社について、横断的な比較がしやすい「連結ベース」の「税引き前利益」を洗い出してランキング化し、注目の2013年3月期決算の傾向を探ることにした。



 伝統的な日本の会計基準で重要視されることが多い「営業利益」や「経常利益」といった概念が米国会計基準にはないし、「税引き後当期利益」は税務処理に大きく左右されて単年度の動向がわかりづらいからである。その点、各企業の「連結ベース」の「税引き前利益」ならば、業種の枠を超えて、各社の実力を浮き彫りにし易いはずだ。

 その集計結果をランキング化したのが下の表である。


 これをみていだだけば一目瞭然だが、「税引き前利益・日本一」のチャンピオンは、1兆4,000億円と前期比で3.2倍の利益を稼ぎ出して、見事な復活を遂げた「世界のトヨタ」である。

 ちなみに、トヨタの決算短信によると、今回の急回復の原動力は、「前期比20.7%増の887万台」を記録した自動車販売の好調だ。その結果、トヨタの営業利益は前年度に比べて9,652億円増えたが、増益要因は「営業面の努力が6,500億円、原価改善の努力が4,500億円、為替変動の影響が1,500億円、その他の要因が152億円」、一方の「減益要因としては、諸経費の増加ほかが3,000億円あり」、この増益になったと説明している。

 トヨタの業績回復について、「円安効果=アベノミクス」を強調する報道が多いが、実際は、円安効果の寄与度は1割程度に過ぎず、圧倒的にトヨタ自身の販売や合理化といった自助努力が功を奏した決算だったことになる。

 トヨタ以外の自動車大手は、中国の反日運動の影響などが深刻だった日産自動車の税引き前利益が5,167億円で前期比2.4%減ったものの、本田技研工業は同89.9%増の4,888億円を確保した。今回のランキングに取り上げなかった3社以外の自動車各社も総じて回復傾向にあり、業界全体として、「勝ち組」と言える利益水準を確保した。


*** 国債売買での荒稼ぎした三菱UFJ銀行 ***
 自動車と並ぶ勝ち組はメガバンクだ。ランキング第2位の三菱UFJフィナンシャルグループは減益決算だったものの、1兆3,000億円を超す税引き前利益をあげて金融機関トップの座に輝いた。

 3大メガバンクは、そろって絶好調の決算を記録したと言ってよい。全体で4位に付けた三井住友フィナンシャルグループも1兆円を超す税引き前利益を稼ぎ出した。メガバンク3行中3位のみずほフィナンシャルグループも7,000億円台の税引き前利益を出してトップ10入りを果たした。



 バブル期の上位都市銀行を彷彿させるような、当初予想を大幅に上回る利益を実現した原動力は、国債売買での荒稼ぎだ。金利低下が続いた結果、保有していた債券の評価益が膨らんだこともあり、3メガバンク本体の国債等債券損益は、最も少ない三井住友銀行で1138億円、最も多い三菱UFJ銀行で3,223億円と膨らんだ。みずほ銀行は他2行のほぼ中間の2,204億円となっている。

 昨年11月の野田佳彦前首相の解散・総選挙発言に端を発した株式相場の上昇と活況も大きく寄与した。昨年秋までのように日本株相場の低迷が長引いていれば急増したはずの保有株式の減損を含む「株式等関係損益」の赤字が、大幅に縮小したのである。また、メガバンク本体や系列の証券会社で株式投資信託の販売が急増して、手数料収入が拡大した。

 電気通信は、NTT(前期比3.1%減の1兆2,010億円)、NTTドコモ(同4.0%減の8,416億円)、ソフトバンク(同2.9%増の6,504億円)、KDDI(同9.4%減の4,117億円)と、KDDIの減益幅がやや大きかったものの、大手が今回も揃って高水準の税引き前利益を確保した。スマホ人気が根強く、「不況への強さ」を改めて印象付けた格好だ。

 同じく「不況への強さ」を証明したのが、今回のランキングで唯一、非上場企業でありながらトップ10に食い込んだ日本郵政である。政府の規制が厳しく、品揃えの拡充がままならないかんぽ生命の収入の落ち込み、通販関係の配送は増えても手紙・はがきを電子メールに食われて収入が伸びない日本郵便の伸び悩みを、ゆうちょ銀行の保有国債の評価益拡大などでカバーして、前期比0.1%減とほぼ前期並みの税引き前利益を確保した。

 8,397億円という税引き前利益の水準は、名立たる日本のビッグビジネスの中で6番手の水準。日本たばこ(税引き前利益5,095億円)、JR東海(同3,261億円)、JR東日本(同3,043億円)など他の民営化企業の水準も上回っている。


*** 円安の収益押し上げ効果はまだまだ限定的 ***
 このランキングで見ると、増益を確保したのは50社のうち15社と、3分の1にも満たない。

 こうしてみると、政権交代前からほぼ1年を通じて継続した金利低下の影響は、金融各社にとって無視できない大きな追い風だったと言える。しかし、メガバンク、自動車はもちろん、通信、郵政などの勝ち組企業でも、マスメディアが「アベノミクスの効果」とはやしている円安が収益の押し上げに果たした役割はイメージされているほど大きくなく、まだまだ限定的というのが実情だ。

 一方で、パナソニック、シャープの電機2社のように、円安にも関わらず、そろって4,000億円前後という巨額の税引き前赤字を計上した企業があることは見逃せない。追い風に乗れなかった原因について、メーンバンク筋では、「自動車と違って、白物家電では海外工場で生産して日本に逆輸入しているものの比重が高まっているため、円安が電機大手にとってプラス材料という固定観念は時代遅れだ」との解説も聞かれた。

 また、国策支援を受けながら福島原発事故の賠償が滞りがちな東京電力が、記録的な税引き前赤字を出したのを始めとして、電力各社の膨大な赤字は、各社の経営の根幹だけでなく、企業活動や家庭生活を揺るがしかねない深刻な状況になっている。



 今2014年3月期の企業業績が一段と回復傾向を強めるかどうかは予断を許さない。日銀が引き続き「異次元の金融緩和」を継続するとみられることから、円安基調は変わらず、自動車、機械、素材などの輸出産業はある程度増益傾向を強めるものとみられる。

 しかし、2013年3月期の例をみてもわかるように、電機では円安効果に過大な期待を持つのは禁物だ。また、燃料調達コストの上昇で航空の経営環境が厳しくなるほか、火力発電依存を強めている電力では燃料調達コストの上昇が経営危機を一段と深刻なものにしかねない。

 一方、メガバンクの好業績を支えた金利の低下傾向がいつまでも続くとは限らないというリスク要因もある。今回は勝ち組だったが、一転して減益決算を強いられて負け組に転落しかねないのだ。

 安倍晋三首相は先週、アベノミクスの最大の目玉である成長戦略の第2弾を発表したが、政策としての具体的な中身が乏しく、「戦略」と言うより、希望的な数字を羅列した「目標」といった方がいいようなものにとどまった。

 そろそろ本物の成長戦略を打ち出さないと、リーマン・ショックから5年を経て、ようやく回復の兆しが見えてきた企業業績を再び冷え込ませることになりかねない。