【コラム】中国の奇跡が抱える3つの矛盾 | ブー子のブログ

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損してもいい、と思ったら、やればいい。
それはやりたいことだから。

 中国が「経済の奇跡」であるのは紛れもない事実だ。中国は、対外開放政策を始めて以来、国民の生活水準を10年ごとに倍増させた。これは、最も高い成長を謳歌した時代に米国が約30年かかったことだ。だが今、その中国経済の基盤に亀裂が生じつつある。3つの矛盾、とでも言うべきか。

 第1の矛盾。中国の指導部は、賃金上昇を継続し、大衆の期待に応え続ける一方で、成長速度を鈍化させ、インフレを抑える方針だ。これは、どんな政府にとっても難問だ。支配力の喪失を恐れるあまり、市場に多くの仕事を任せたがらない政府にとってはなおさらだ。

 いまだマルクスとエンゲルスの像が立つこの国で、賃金の所得に占める割合が縮小、貧富の差は拡大しており、消費拡大の糸口を見つけるのは容易ではない。中国には小売店がたくさんがあるが、その多くは博物館のようだ――人々は見るだけで買わない。

 労働力への需要は強く、賃金はさらに上昇している。これは、中国の指導部が重んじる社会の安定の維持と、中国の輸出依存回避に不可欠な個人消費拡大を進めるうえで重要だ。

 これまでのところ、問題はない。しかし、賃金の上昇が、中国の工場の競争力を低下させているように思える。その証拠として、米衣料大手ギャップの中国店舗で売られているTシャツには「マレーシア製」と書かれている。一番安い歯ブラシはベトナム製だ。

 解決策は、より付加価値の高い生産とサービスへの移行だ。そのためには、現在よりも大規模で、質の良い、自由な教育システムが必要だ。ある当局者によれば、現在の教育システムでは、ソビエト方式の運営モデルが科学研究を妨げており、子どもに海外教育を受けさせる中国のエリート層は自国の教育を避けている。

 第2の矛盾。中国政府関係者の間で最近盛り上がっているのが、ほとんど国内でのみ使われている人民元の「国際化」だ。これは国家のプライドであり、自国通貨で取引がしたいという貿易関係者の願いでもある。また、万が一、新たな金融危機が起きた場合には、米国のように自由に安く海外から資金を調達できれば、という中国の思いでもある。

 これまでのところ、うまくいっている。しかし、預金者がインフレ分を吸収できないほど金利を低く抑える政策を中国がやめないかぎり、人民元の国際化は無理だ。世界を相手にするということは、経済をグローバル市場にさらすことなのだ。

 一部の当局者は、超低金利の危険性を認識している。中国人民銀行(中央銀行)の次期総裁に就任する可能性もある中国建設銀行の郭樹清会長は、「コントロールがきかなくなる前に、実質マイナス金利について対策を打つ必要がある」とインタビューで述べた。郭氏は、「多くの人が、預金は無駄だと思い、金や銀といったものに殺到している。多くの人が不動産を買っているが、家が必要なわけではない。投資のために買っている」と指摘した。

 確かに中国では、金持ちは第3、第4のマンションを買い、投機を行っている。一方、価格高騰で家を一軒も持てない人もいる。中国の資産バブルは、米連邦準備理事会(FRB)ではなく、中国の金融政策によってもたらされている。

 米金利が低いのは、FRBが借り入れを刺激しようとしているからだ。中国の中銀は借り入れの減少を望んでいるが、政治力のある企業と政府の借り手が金利の引き上げを阻んでいる。著名エコノミストのヌリエル・ルービニ氏は、中国の政策を「政治的に弱い家計から政治的に強い企業への大規模な所得移転」であると指摘。「つまり、弱い通貨は輸入を割高にし、低い預金金利と企業、デベロッパーへの低い貸出金利は、結局、預金を圧迫することになる」と述べた。

 人民元を国際化するということは、政治上の理由から金利を経済的な適正水準以下に抑える慣行の終わりを意味する。それは経済政策の透明化を意味する。中国の指導者は、人民元の国際化には積極的だが、それが持つ諸々の意味をよくわかっていない。

 第3の矛盾。抑圧的な政府が、年10%で経済が成長している時に国民を満足させるのは楽だ。そう、これまでのところ、うまくいっている。

 しかし、経済のブレーキを踏むことは不人気で、国民を信用しない政府を脅かすものだ。中国で、ツイッターはブロックされる。学生は、インターネットの世界が「中国限定」になっていると不満を漏らす。政府による検閲のせいか、インターネットの速度はどうも遅い。

 政府に対して、国民もやり返す。中国では、外国人の訪問者でさえ、多くの国民が政府を信用していないことに気づく。北京の清華大学のある大学院生は、サンドイッチを片手に「指導者が娘に海外の教育を受けさせる国は、何たることだ」と憤慨する。これは中国の次期国家主席、習近平副主席を念頭に置いた発言だ。習近平副主席の娘はハーバード大学での1年目を終えた。

 万里の長城はあるものの、ほとんど観光客も訪れない北京から60マイル(約96キロ)ほど離れたところにある村。その村には、簡素な農家の家が数十軒と、周囲にはそぐわない、大きくそびえたつ3階建ての新築のレンガ造りの家が一軒ある。村の人々は皆、誰がこれを建てたのか知っている――地元の共産党書記だ。彼の給与で建てられていないことも周知の事実だ。

 基礎に入った亀裂は、必ずしも崩壊の兆しではない。しかし、それは緊張のしるしだ。それに対処しなければ、中国ほどの巨大経済であってもその弱体化は避けられない。

記者: DAVID WESSEL