大阪検察の事件はひどいものだと思いますが、ストーリーを決め込んでそれに
合った情報だけを流すと言う面ではテレビの経済番組や新聞の記事も全く同じ
事です。ひとの命がかかっていないだけまし、とも言えますが、本質的には全
く同じ事で経済ジャーナリストの方がもっとたちが悪い。
そのニュースを見て命の次に大事なお金を運用しなければならない個人投資家
の方々は本当に大変だと思います。それこそ人生を左右しかねません。
そもそも、そういう方々の為にこのメルマガを始めました。皆さんが騙されな
いように・・・ということだった訳ですが、今回のような事件を見ると、ジャ
ーナリストに彼ら(検察)を非難できる人は誰もいないような気がつくづくし
ています。
世の中普通にテレビや新聞で言われている事が大嘘である事は結構多いのです。
アメリカではよくこういう例で説明します。
蚊の多い所は結核の患者が多い・・・と報道されると、誰しも蚊が原因で結核
患者が増えるのかと思ってしまう。しかし、実際は温かい所には蚊が多く、蚊
が多いような温かい所に結核療養所が多く、結果的にその地域に結核患者が多
いという相関関係があるにすぎないのです。しかしそれをあたかも因果関係が
あるようにジャーナリストは伝えるのです。
例の納豆を食べると痩せる、というのもその一種ですね。ある一部分だけを取
り出してしまい、全体の傾向を誤魔化す訳です。
他の食品を減らして(例えばステーキをやめて)その分を納豆にすればカロリ
ーが下がるからもちろん痩せます。しかし、今までと同じ量を食べてそれに納
豆を加えればその分カロリーが余計になって太るに決まってる・・・のに納豆
を食べれば痩せるという番組をやって、実際に売り切れる、ってやつですね。
経済・金融ってのはこういう話ばかりなのです。まともな検証すらせず、情報
を垂れ流す。テレビで偉そうに喋ってるから本当なのか、と思えば嘘ばっかり
です。
円高で景気が悪くなる(円安なら景気が良くなる)、日本の財政が破たんして
いる、といういずれもその一つである事を検証してきましたが、ある高名な経
済学者と話していてもっと根本的な部分で検証されざる嘘、というか妙な事実
があることに最近気づきました。
曰く、日本の金融機関は欧米の金融機関同様サブプライムショックで大変な損
失を出した。その結果融資が回らずに景気停滞を招いている。
曰く、日本はリーマンショックによる金融危機によって不景気になった。
曰く、日本は「失われた十年」でバブル以降全く成長することができなかった。
これではもう何も見ていないとしか思えません・・・ということでまあ、基本
的過ぎるとはいえ、一応ここで検証をしてみたいと思います。現在の経済状況
を知る上では「一丁目一番地」とも言えることなのですが多くの経済学者が理
解していないか、或いは意図的に無視しています。
*****************************************************************
日本の金融機関はリーマンショックでダメージを受けた・・・のか?
*****************************************************************
まず、サブプライム以降、リーマンショックによると言われる世界金融危機で
すが、これはワタクシのブログに詳しく書いてあります通り、当時実際ほとん
どすべてのテレビ局が日本の金融機関も大変ですね、たくさんサブプライムに
投資してますよね、と取材に来た。
私は全然大変じゃありません、と答えて一回だけワールドビジネスサテライト
のビデオ撮りでひっかかってしまい、あたかも大変だと言ったように加工され
てしまったのですが、全然大変じゃありませんよ・・・と答え続けていたため
にそのうち取材が来なくなった。実際大変ではなかったのです。
まずこの辺を解説しておきましょう。
結局日本の金融機関は1980年以降、全ての期間に渡り伝統的に総資産の10%
程度しか外貨(ドル以外も含め)に投資していないのです(郵貯簡保も含む)。
あくどい外資系証券に騙されずに極小に投資を抑えていたら、たいしたもんで
すが、実は理由がはっきりあります。
日本には一切外貨建ての借金がありません。世界でこんな国は日本だけです。
すべて円で賄っています。ですから基本的に外貨でまず借りる必要がない。そ
こでやるとなると金融機関(銀行)はプロアクティブに外貨で借りてそれをわ
ざわざ投資をすることになります。要するに貯金が十分あるのにわざわざ人か
ら借りて競馬をするような状態です。従ってもともと借りる必要のない「遊び」
のお金ですから性質的に増えようが無く、総資産の10%もあれば十分でしょう。
しかし、これが欧州の銀行となるとものすごい金額のドルを借り入れています。
もともとフランスフラン、イタリアリラなどの弱い通貨の国はドルを借りてそ
の信用を補完する必要がありましたし、国内の貯蓄が十分ではない為に国内融
資で賄えない分は、ドイツと言えども外国から外貨を借りて来ざるを得なかっ
た、という現実があります。
日本は潤沢な貯蓄を元に国内で調達が可能で、しかも日本は借りなくとも外貨
準備がしこたま溜まっていましたよね。ですから借りる必要が全くなかったし、
今でもないのです。この差は大きい。
結果として欧州の銀行は恒常的に借り入れるドルの余資運用と言う形でのドル
投資に走らざるを得なかった結果、格付けを要求するBISリスク規制とあいまっ
てああいうドル建ての証券化商品にのめりこんでいく訳です。日本の金融機関
は潤沢な外貨準備や企業収益のおかげで外貨運用のニーズがそもそもないので
す。あるとすると言わば「趣味の外債投資」ということになります。
誤解が多いのですが、注意してほしいのは銀行はやるとすると外貨を市場で借
りてそのまま外貨で運用していますから、その意味では為替リスクはゼロだっ
ということです。円高により外貨建て資産が目減りして評価されるという点を
除けば為替リスクはゼロであり、スプレッドの取れる証券化商品が魅力的に見
えたこともあった筈です。ただ、円高傾向が続いたため期末での資産評価が大
きく下がる事を嫌い、大量に外貨建て商品を買う事をしませんでした。
あったとするとみなさま個人の方が大挙して外貨建て預金をおやりになるかど
うか、だったのですが、ご存じの通り、日本人は未だに大半を円で貯金をして
いるという珍しい国民です。なぜか? は私にも分かりません。
一方、円を外貨に投資するというニーズは比較的高い利回りを保証する生命保
険会社にはありました。しかし、日本の生保は長い間海外参入制限、競争から
無縁であったために、外貨建て資産で運用をしなければ回らないほどの資産運
用プレッシャーはゼロでした。強いて言えば変額保険でしたが、元本が半分に
なっても文句を言わない優しい契約者のおかげで、知らない顔をすることがで
きた訳です。
さらに円高です。彼ら生命保険会社は純粋に円資産を投資しますので当然これ
が肝心なのです。
生命保険会社と銀行の外貨建て資産の運用の違いをしっかり把握しておいてく
ださい。
我々の業界では基準金利をライボ(Libor)といいまして、まあ、ロンドンのイ
ンターバンクの基準レートなのですが、一流企業(J&Jやコカコーラ)などです
と、これにスプレッドがのると言ってもせいぜい50BP(0.5%)程度のものです。
つまり現在、10年のアメリカ国債を買うと2%だとすると、コカコーラにファイ
ナンスを付けても2.5%ということですね。(アメリカ国債を買うと言う事はア
メリカ政府に金を貸す、ということと同義です。)
円の金利はゼロだとすると、これで2.5%も高い金利が手に入る・・・という
ことになりますが、この2.5%、1ドル85円が84円30銭まで円高になったら全
て吹っ飛ぶ計算になりますよね。
もっと高金利のファイナンス、例えばプラス500BPなどの出来上がり7%なんて
ものもあるにはありますが、これは当然相当危ない融資先です。従ってそれだ
け危ないリスクをとって7%を取りに行っても、85円が80円になってしまえば
すべて吹っ飛んでしまう。
世界最強の通貨を持っている日本の金融機関にとって外貨建て運用というのは
決してトクな運用ではなかったので・・・・・結局証券化商品も先ほどの範囲
内でしか買う事がなかった、というからくりです。
もう話してもいいでしょうが、唯一の例外が農中と滝野川信金という所でした。
農中はなぜか一兆円近い外貨建ての証券化商品の残高を持っていましたが、こ
れも農中の体力からみれば実際にはたいしたものではない。滝野川信金はさす
がに潰れかけまして、救済合併で倒産を逃れました。まあ、いずれも例外とい
うことですね。ただ、報道されませんが、大和生命と言う所だけはどう見ても
これが原因で潰れました。
ですから被害がゼロとは言わないものの、日本の金融機関の大勢には殆どかか
わらない、所詮総資産の10%の話だ、と申し上げたものですからどこのテレビ
からも呼ばれなくなりました。こういう時は大変だ、と言わなきゃ使ってもら
えないのです。ですから皆様はバイアスのかかった報道ばかりを目にするよう
になり、いつのまにかそれが事実だと思いこまされます。
そのくせサブプライム問題が表面化し始めた2005年には、そんなものアメリカ
のGDPの0.8%しかないんだから鼻くそみたいなもんだ、と報道したのも他なら
ぬ彼らです。この時これはアメリカ経済を揺るがすぞ、と警笛を鳴らしたのは
日本ではそれこそ私位でした。(もちろんルービニ教授は80年代からおっしゃ
ってましたから御立派の一言に尽きますが・・・)同じくテレビには呼ばれま
せんでしたが、ブログがあればこそお伝えできた事実でした。
従いまして当然リーマンショックでも日本の金融機関は実際には無傷でした。
せいぜい持っていても10%、更にすべて証券化商品などで保有する筈もなく、
アメリカ国債などを持っている訳です。そして御存じの通り主力の日本国債は
それ以降皆様の予測に反して(私と某大手外資系ストラテジストのSさんだけ
が当たりましたが)金利が下がり続けた訳ですから悪い筈がない。
東京三菱に至ってはモルガンスタンレーに出資までしてしまい、今やモルガン
スタンレーの看板が三菱と共にかかっているのですから、すごい時代になった
もんです。
現在、自己資本比率を巡って大変だ、大変だと騒いでいるのはリーマンショッ
クがあろうがなかろうが迎えていた、第二次BIS規制による自己資本規制の敢
行に向けての話でリーマンショックとは全く無関係です。
むしろリーマンショックのおかげで、世界中でこれを順守するのは恐らく日本
の銀行だけということになるでしょう。アメリカは既にギブアップ、欧州の大
手銀行もギリシア危機のおかげでとても間に合わないでしょう。日本の金融機
関はこの点に関しては世界の最先端を走っているだけのことですね。
何人かの読者の方がメールを下さったのですが、こういった金融システムの圧
倒的な安定性が円高に繋がっているのではないか、とお考えになっているとの
ことで、それは理にかなっており極めて感度が高い考え方だと思います。世界
中の金持ちがいざという時にスムーズに資金を移動できる銀行はどこなのか・
・・と考えた時に、RBSはHSBCではなく(ギリシア債権をいくら持っているのか
も不明)、ましてシティーやバンカメじゃ危なくて仕方がない・・・と考えて
も全く不思議ではありません。実際ワタクシノまわりにもそういう連中がたく
さんいます。
ということで、失われた10年に関する考察は次回以降いきましょう。もし、予
習をして頂けるのであれば一番の参考文献は先日も御紹介した藻谷浩介さんの
『デフレの正体』です。藻谷さんの説明に沿って解説していこうかと思ってお
りますので、お時間のある時に是非ご一読ください。
これも(失われた10年)物の見事なねつ造であるということが簡単に説明でき
てしまいます。
さて、アメリカの住宅関連の数字が出ました。
***************************************************************
全く戻らないアメリカの住宅販売
***************************************************************
住宅着工についてはブログに書いておきました。水準そのものの問題である、
と何度も申し上げている通りでございまして、10%増えようが59万という数字
そのものが統計を取り始めた1969年以来、ありようもない低水準だということ。
労働生産人口が増え続けているアメリカではどんなに景気が悪かろうが150万
戸は住宅着工があるというのが普通であって、60万戸にも満たないというのは
元来あり得ない数字です。
クルーグマンがいつも言う、6個が7個になっても、100個が113個になっても
同じ13%アップだが、その数字の持っている意味は全く違う、と言う事を改め
て噛みしめるべき数字でした。
そして所謂中古住宅販売。NYTは・・・
(どうもこの中古という訳語は気に入らない。アメリカの住宅市場ではセカン
ダリー・・・2次販売・・・というニュアンスはありますが、古いというニュア
ンスはない。ただのセカンドハンドということだけですので、価値観としては
新築と同等に扱われています。所詮中古だろう、という人が多いのですが、10
年もするとぼろぼろになってしまう日本の中古住宅とは全く違う商品です。こ
のあたりの感覚は大事にして頂きたい。)
Existing-home sales, which are completed transactions that include
single-family, townhomes, condominiums and co-ops, increased 7.6 percent
to a seasonally adjusted annual rate of 4.13 million in August from an
upwardly revised 3.84 million in July, but remain 19.0 percent below the
5.10 million-unit pace in August 2009.
新築以外の全ての住宅販売は7月に比べて7.6%上昇し413万戸、7月もリバイズ
され384万戸にアップ、しかしながら2009年の8月の510万戸を19%も下回る数字。
Total housing inventory at the end of August slipped 0.6 percent to 3.98
million existing homes available for sale, which represents an 11.6-month
supply at the current sales pace, down from a 12.5-month supply in July.
住宅在庫については8月398万戸となり7月よりは0.6%(たったの)減少、
11.6ヶ月分の供給に相当し、7月の12.5ヶ月よりは改善した。
グラフをブログに貼っておきますが、これも絶対値で見れば引き続きとんでも
ない在庫水準で、そのうち在庫を保有する余裕さえ無くなってくるでしょう。
既に在庫にしても仕方がないということで差押えそのものが減っているなどと
いう、とんでもないデータも出てきています。
細かい数字ですが、こういうものが将来を見通す上で非常に大事なのです。
アメリカの住宅市場は、増え続ける供給と価格の下落によって挟み撃ちに
あっているようなもので、価格の下落=ローン返済圧力の上昇、となって、
個人の所得を直撃し、消費が減退、住宅が回復しない限りアメリカ経済は
ますます悪化していくことになります。
***************************************************************
決死の覚悟か、オバマ政権・・・サマーズ退任
***************************************************************
ローレンスサマーズNEC委員長が退任。
http://jp.wsj.com/US/Politics/node_106975/?nid=NLM20100922
経済閣僚が次々と辞め大変だと言われていますが、僕はちょっと違う所を見て
います。このニュース。
WASHINGTON (CNNMoney.com) -- President Obama announced Friday that he's
appointing Harvard law professor Elizabeth Warren to a key role crafting
the consumer financial protection bureau that was her idea in the first
place.
相変わらず日本のメディアは扱いが小さいのですが・・・このウォーレンの
起用は旋風を巻き起こすかもしれません。
【エリザベス・ウォーレン】
日本語で言うと金融消費保護局?? の特別顧問ということですが、彼女は既
に2003年には所謂アメリカの中流階級の貧困化のメカニズムを明らかにし、リ
ーマンショックやサブプライム問題が発生した後、これが深刻化するのは間違
いなく、それはそういった70年代からアメリカを支えていた中流層が崩壊しつ
つあることによる、と明快に分析した大変な学者です。
ある意味オバマが切り札を切った可能性はあります。
詳しくは
The Two Income Trap: Why Middle-Class Parents are Going Broke
Elizabeth Warren
を読んで頂くしかないのですが、今回の経済停滞はアメリカの中流家庭の崩壊
こそが原因の全てだ、とする問題提起は斬新、かつ極めて整合性があります。
1970年代以来全く上がる事のなかった男性の収入、その一方保険料やローンの
支払いは倍に増えた。その結果女性が働きに出ざるを得なくなり、ダブルイン
カムを維持するために更に余計な養育費などの支出を迫られ、ローンが増え、
トータルではどんどん貧困化が進む・・・という7月に私がシアトルからレポ
ートした通りの話を学者としてきちんと分析しています。
ある読者から私の友人のアメリカ人はフロリダで遊んでいるからあなたの言っ
ていることは大げさだ、と指摘された事がありますが、そういう金持ちがいる
事は当然で私が指摘しているのはアメリカの中流、つまり年収で言うと3000
万円当たりの人々も含めて中流層が壊れている・・・ということであって、
その一方で何億円の収入を得ているアメリカ人がいるのは当然です。しかし、
この中流層の崩壊こそがアメリカのアキレス腱になると踏んで、オバマ大統領
がその議論の中核であるウォーレンを起用したというのはかなり大きな決断
です。
所謂格差問題に対して正面から戦おう、という姿勢は大いに評価できるのでは
ないか、というのがアメリカでの受け止め方で、確かにサマーズの引退は痛い
のですが、既に次のフェーズ、つまりアメリカの所得格差問題に真剣に取り組
む姿勢は評価されることになるでしょう。