[杉村 富生先生の株式コラム 08月23日号]
日銀はなぜ、嫌われるのだろうか
日本銀行(日銀)に対する世間の“風当たり”が一段と強まっています。
「円高進行を許し、デフレ脱却ができないのは日銀が何もせず、その役目をはたしていないからだ」と。すべて、日銀のせいにするのはいかがなものかと思いますが、批判されるにはそれなりの理由があるのでしょう。実際、1990年のバブル崩壊以降、日銀は数多くの政策ミスを連発しています。
まず、1990年のバブル崩壊直後の三重野総裁です。彼は「株価、地価の下落は実体経済には何らの影響を及ぼさない」との“大本営”発表を繰り返しました。それどころか、1991年夏まで金融引き締めを強行します。それがどんな悲惨な結果をもたらしたか、いまさら述べるまでもありません。
次は1994年6月です。日経平均株価は1992年8月18日に1万4309円と、当時としてはバブル崩壊後の安値をつけたあと、1994年6月13日に2万1552円の高値まで戻しました。ところが、この局面で日銀は金利の高め誘導に踏み切ったのです。結果は? いうまでもありません。円高もあって、1995年7月3日には1万4485円の安値まで急落します。4月19日には1ドル=79円75銭の超円高が出現しましたが、これは明らかに政策ミスがもたらしたものです。
さらに、2000年4月12日のゼロ金利政策の解除も歴史に残る政策ミスといえるでしょう。日経平均株価はこの日が高値(2万0833円)になっており、2003年4月28日には7607円まで急落しました。早すぎた出口戦略がせっかく立ち直りかけた景気をぶち壊したのです。もちろん、ITバブル崩壊というアクシデントはありましたが・・・・。
デフレは通貨高をもたらします。そして、通貨高はデフレ脱却を困難にします。ポール・クルーグマン氏(2008年にノーベル経済学賞受賞)は「深刻な金融危機、デフレに際しては効果などは考えず、とにかく迅速、果敢にあらゆる手段を講じるべきだ」と語っています。
現状はどうでしょうか。円高・ドル安が進行しています。19日の海外市場では再び、1ドル=84円台に突入しました。15年ぶりの円高水準です。FRBが追加の金融緩和(FFレートは現在、0.00~0.25%→次の手はゼロ金利政策?)に踏み切るのではないか、との観測がドル売りを誘っています。
一方、菅政権、日銀の動きは鈍いですね。スピードが遅すぎます。日本経済はサブプライムローン・ショック、リーマン・ショックでは主要国の中で最も大きなダメージを受けました。もちろん、輸出主導経済であり、やむを得なかった―との見方があるようです。
確かに、日本の輸出金額は2007年度が85兆円、2008年度が72兆円、2009年度が59兆円と急減、この差が需給ギャップとの分析が可能でしょう。ただ、日本経済を単純に輸出主導経済と決めつけるのはどうかと思います。
ちなみに、日本の輸出依存度(輸出金額÷名目GDP)は17.4%ですが、韓国は54.8%、ドイツは47.5%、中国は36.6%、EU27カ国は40.2%などとなっています。しかし、ドイツ、韓国の景気は落ち込んでいません。逆に株価は年初来の高値を更新しています。
やはり、“日本沈没”の主因は円高でしょう。では、ダメな国の通貨がなぜ、買われるのでしょうか。その理由、疑問の答えは日銀の姿勢にあります。なにしろ、今回の金融危機の対応では日銀は金融緩和に極めて消極的でした。結果的に、日銀の無為無策は“万死”に値するでしょう。
たとえば、主要な中央銀行の2007年の総資産残高を100として指数化すると、BOE(イギリス)が360、FRBが265、ECB(EU)が160、日銀が107となっています。
これは中央銀行の健全性の指標ともいえますが、「100年に1度の危機」、かつ大きな打撃を受けているというのに、何もせず円高を招いている現状は悲しすぎます。
日銀は早急に決断し、ドラスチックな施策(流動性の供給、ゼロ金利政策など)を断行すべきでしょう。まあ、秋風の吹くころ(9月14日に民主党の代表選、9月下旬は臨時国会)には何らかの動きがある、と期待していますが・・・・。