『スターバックス成功物語』ハワード・シュルツ(日経BP)~異質なものを取り込む度量 | Bookworm in the Hammock

『スターバックス成功物語』ハワード・シュルツ(日経BP)~異質なものを取り込む度量

スターバックス成功物語』を読みました。


原題は、Pour Your Heart Into It. 


原題のほうが良い気がします。


とても、面白く、有益な本でした。



スターバックス成功物語スターバックス成功物語




著者であり、現在のスターバックスの


実質的な創業者である


ハワード・シュルツは、


とても貧しい家庭に生まれ、


友人のお父さんに、


自分が住んでいる地区を告げると、


あからさまに軽蔑されてしまうような、


そういう貧民街で育ちました。



時には売血をしたりして金を工面し、


大学を出た後、


ゼロックス社のセールスマンになります。


2つ目に就いた仕事でシアトルに出向いたとき、


「スターバックス」という、


地元のコーヒー愛好家のインテリ数人が、


コーヒー好きが高じて始めた、


小さな高級コーヒー豆の販売会社に


魅せられ、就職します。



この時のエピソードもなかなか面白く、


ハワード・シュルツは始め、


就職を断られてしまうんです。


これほどの成功を収めた経営者が、


一度、就職を断られていたという点でも、


一度断られたくらいでは諦めなかった、


という点でも、2重の意味で興味深いです。



ハワード・シュルツが就職した当時、


「スターバックス」は飲み物を提供する


喫茶店形式のお店ではなく、


焙煎した豆そのものを販売するお店でした。


ハワードは、お店でコーヒーを飲んでもらおうと


何度も進言するのですが、聞き入れてもらえず、


結局、会社を飛び出して、


「イル・ジョルナーレ」という、現在の「スターバックス」に


つながる会社を立ち上げるのですが。。。



と、あらすじはこれ位にして、


この本には1人、とても興味深い人物が登場します。


それは、もともとコーヒーの熱狂的な愛好家が始めた、


とても「製品志向」の強いスターバックスという会社に、


「顧客志向」という視点を根付かせたビーハーという人物です。



たとえば、彼は、顧客の要望がとても多いけれども、


「そんなもの」を本物志向のスターバックスが提供することは


決してありえないと考えられていた「ノンファットミルク(脱脂乳)」を、


スターバックスが提供することに貢献しました。


              *


(ビーハーが)入社して1ヶ月もたたない頃、


ビーハーは私のオフィスにやって来てこう言った。


「顧客のコメントカードは読んでいるのかね」。


「もちろん、一枚も漏らさず読んでいるよ」と私は答えた。


「でも、対応していないじゃないか」。


「対応って、何に?」。


「ノンファットミルクを希望している顧客が大勢いるよ」。


「ノンファットミルクでカフェラッテやカプチーノを作ってみたんだが、ひどい味でね」。


私はこう言って事情を説明した。


「だれにとって、ひどい味なんだ」。


ビーハーは、私の答えを聞いて、明らかにいらだっていた。


「私と、それからデイブにとってだ」


「いいかい、コメントカードをよく読んでみたまえ。


顧客がノンファットミルクを欲しいといっているんだ。それに応えて当然じゃないか」。


「いいや、絶対にノンファットミルクは使わないよ。


それはスターバックスのやることじゃないからね」


             *


誰にとって、ひどい味なんだ」というのが面白いです。


結局、ビーハーは機会を捉えて、ノンファットミルクの導入に成功するのですが、


彼は別のところで、こう言っています。


「われわれはコーヒーを売るために商売をしているのではない。


人々を喜ばせたいと思い、その手段としてコーヒーを扱っているのだ。」


非常に示唆的な言葉だと思います。



コーヒーにそれほど強い思い入れの無い、ビーハーのような人間だけでは、


スターバックスは、「本物のコーヒー」を提供するというブランドを


確立できなかったかもしれません。


しかし、もともとコーヒーという製品をとても大切にする会社であったところに、


「顧客志向」の思想が根付いた。


これこそが、スターバックスの成功の要諦であったと思います。


             *


本書を読み終えて印象的だったことは、


ハワード・シュルツは、自分に足りないものをよく認識し、


それを補ってくれる人物を積極的に登用してきた、


という点です。


自分の能力不足を認め、それをよりよくこなせる人間に


権限を委譲するということは、


なかなか出来ることではないと思います。


とりわけ、創業者であればなおさらのことです。


この気持ちを端的に示すことばがありました。


             *    


会社をわが子のように育ててきた者にとって、


隅々まで目を配っていたいという本能的な思いを


捨てるのは難しい。(中略)


今でも面白そうな議論が行われている部屋の前を通ると、


のぞいてみたくてたまらなくなることがよくある。


だが、私が参加すれば場の雰囲気が変わってしまう。


それではまずいのだ。


            

             


            * * *




1ヶ月ほど前に、僕は出勤前にひと仕事する場所を、


スターバックスからエクセル・シオールに変えました。


BGMの趣味、店内のインテリア、食べ物のおいしさ、などは、


エクセル・シオールのほうが、僕の好みなのです。



そして、僕にとってはスタバ以上に快適なコーヒーショップを、


日本の企業が展開している事実を、とてもうれしく思っています。


しかし、やはりコーヒーの味の深さと、


従業員との心理的な距離の近さにおいては、


スターバックスのほうが上かもしれないな、と思います。



夏になったら、まだ一度も飲んだことの無い


スタバの「フラプチーノ」を飲んでみようか、


そんな気にさせてくれる一冊でした。



ではでは。