パトリック・ネス「怪物はささやく」あすなろ書房2011 | 日々是本日

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怪物はささやく (創元推理文庫 F ネ 2-1)

 

 原作は1995年出版のパトリック・ネスの若者向けファンタジー小説「A Monster Calls」で、テーマは「自分自身の本心と直面すること」である。

 

 日本では2011年に出版されている。

【ストーリー】

12歳の少年コナーは、裏窓から教会の墓地が見える家で難病の母と暮らしていた。
毎晩、悪夢を見ていたコナーの前に、ある晩、怪物が現われる。
怪物はこれから自分が3つの「真実の物語」を語ると言い、怪物が3つの物語を語り終えたら、今度はコナーが4つ目の物語を語るようにと言った。
そしてコナーが語るべき4つ目の物語とは、コナーが隠している「真実」でなければならないと告げる。
こうして、難病の母を心配しながら怪物と対話する日々が始まった。

 4つ目の物語でコナーが「真実」を語らなければならないというのは、真に「自分自身の本心と直面すること」というテーマを意味している。


 映画で特に素晴らしいと感じたのはその映像化であったが、原作で特に素晴らしいと感じたのは、「自分の本心と直面するという若者の心理的な課題」を怪物との対話という形で表現することによって、心の内実が血肉をもって伝わってきたことであった。

 

 

---以下、ネタばれあり注意---

 

 

 以下、この作品において「自分自身の本心と直面する物語とはどういうことであるか」を具体的に紹介しておきたい。

 

 怪物はまず人が自分に嘘をつくことを正当化する。

「人が嘘をつくとき、だれより自分がその嘘を必要としているということも少なくないのだよ。」(単行本:p72)

 そして、人の心について語る。

「おまえの疑問に答えられるのは、おまえ自身しかいない。」(単行本:p181)

 更に語る。

「人の心は、都合のよい嘘を信じようとするものだ。しかし同時に、自分をなぐさめるための嘘が必要になるような、痛ましい真実もちゃんと理解している。そして人の心は、嘘と真実を同時に信じた自分に罰を与えようとするのだ。」(単行本:p201)

 それではどうすればいいんだ、というコナーに怪物はこう答えた。

「真実を話せばいいのだよ。」(単行本:p202)

 実に良質な若者向けの文学作品だと思う。

 

 さて、こうした良質の若者向けの文学作品を読んだ時に思うのは、若い時期の心理的課題を既に経験した大人にとっての意味である。

 

 その一つは、自分が若い時にこうした心理的課題とどう向き合ったかを思い出すことではないだろうかと思う。

 

 このことはまた、

 

 大人は本当は何を忘れるべきではないんだろうか?

 

と、しばしば自分自身にする問いへの答えでもある。