内田春菊「わかいひとへ」青林工藝舎2020 | 日々是本日

日々是本日

bookudakoji の本ブログ

 内田春菊さんと言えば、昔は可愛くてエロい絵を描く人だった。

 

 このあたりの初期作品から記憶にある。

 

▼内田春菊「シーラカンス・ロマンス (1)」1985

シーラカンス・ロマンス (1)

 

 その後、内田さんは人気漫画家となり1994年に出版された「南くんの恋人」はTVドラマ化された。

 

▼内田春菊「南くんの恋人」1994

南くんの恋人 (文春文庫)

 

 けれどもこの頃には関心は内田さんの作品からは離れてしまっていた。

 

 1959年生まれの内田さんはこの時点でまだ35歳で、そこからまた恐らくはいろいろとありーのありーのありーの時間が流れて大腸がんになったニュースに出会うのである。

 

 

 自身の闘病生活もマンガにしてしまうところは流石である。

 

▼自身の闘病生活をマンガにした作品

がんまんが~私たちは大病している~ (ぶんか社コミックス)

 

 そこからまた5年ほどの歳月が流れて、やっと漫画を読むに至った。

 

 青林工藝舎のマンガ誌『アックス』のサイトで無料で読めたのである。

 

▼青林工藝舎のマンガ誌『アックス』のweb版『放電横丁』に第1話と第2話が掲載中

放電横丁 (「わかいひとへ」第1話 内田春菊)

放電横丁 (「わかいひとへ」第2話 内田春菊)

 

▼本の通販ストア「honto」のページ

※左側の表紙画像下の「ブラウザで立ち読み」をクリックすると第1話が試し読みできる。

※『放電横丁』よりも画像が大きくて読みやすい。

 

▼内田春菊「わかいひとへ」青林工藝舎2020

わかいひとへ

 

 帯にはこう書いてある。

あの男はわたしのこと愛してくれた時もあったのかな?

恋愛に懲りた私は、男から解放されたのかもしれない。

だから

もし私が死んでも陳腐な美談なんていらない。

 単行本を確認したのは無料で読めた「第2話 誰も助けてくれない」に、すご~く、いいものを感じたからなのである。

 

 この単行本は、青林工藝社の漫画サイト『放電横丁』に不定期連載していた作品の書籍化であった。

 

 各1話完結で全12話、章立てはこうなっている。

第1話 モトカレの際し (2017年2月25日配信)

第2話 誰も助けてくれない (2017年5月11日配信)

第3話 向き合うつもりもなく (2017年7月6日配信)

第4話 子分にされて (2017年9月8日配信)

第5話 自分ではわからない (2017年12月6日配信)

第6話 恋のようなもの (2018年3月14日配信)

第7話 子別れ (2018年9月1日配信)

第8話 キューピット (2019年5月5日配信)

第9話 機械にできること (2019年6月20日配信)

第10話 モトカノ (2019年9月24日配信)

第11話 義母の家事 (2020年1月7日配信)

第12話 助監督 (2020年4月28日配信)

あとがき

 長期にわたってポツポツと書いている。

 

 まぁ、そこがメインではなくなったからだろう。

 

 単行本を買って、随分と久方ぶりに内田さんの漫画をちゃんと読んだ。

 

 絵にはもう若い男性向けのエロチックさはない。

 

 取り上げた出来事について、答えを出すというのではなく、感想や再認識を提示する気づきの物語であった。

 

 タイトルの通り「わかいひとへ」オススメしたい。

 

 

---以下、ネタばれありの感想---

 

 

 全体を通した感想を表現すると「内田さんの暖かい眼差しを感じた」というのが率直なところなのだが、かえって分かり難いと思われるので無料で読めた「第2話 誰も助けてくれない」の感想を具体的に書くことにする。

 

 ストーリーは一言でいうとこんな話である。

 

 周りの都合にあわせてきた結婚生活から始まり、そこから脱却してシングルマザーだけど元気に忙しく生きた人生、今では息子は青年に育ち自分も相変わらず元気に忙しく働いている。

 この作品で内田さんは、これはこれでアリだと言っているように思う。

 でも「わかいひとに」それを伝えたいだけだったなら、内田さんはそもそもこの作品を書かなかったのではないだろうか。

 これはアリだけどわかければわかいほど別の道も考えられるよ、そう優しく語りかけているように思われた。

 最後のページに描かれた、自分の家の前のお宅で立派に育った椿の花によって。
 

 そして、どの作品にも共通する感想として「内田さんの暖かい眼差しを感じた」となるのである。

 

 1959年生まれの内田さんは今年で61歳、漫画を描き続けてこんな作品に至るなんて、なんだかんだでいい歳の取り方をしたのではないかと思う。

 

 「わかくないひとへ」もオススメしたい。(笑)

 

 

▼内田春菊公式サイトはこちら

※「Shungicu」の「ク」は「cu」!