わたしの好きな黒田三郎 この詩が凄く好きなのよ | クレイジーまったり社長のブログ

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黒田三郎「賭け」

五百万円の持参金付の女房をもらったとて
貧乏人の僕がどうなるものか
ピアノを買ってお酒を飲んで
カーテンの陰で接吻して
それだけのことではないか
美しくそう明で貞淑な奥さんをもらったとて
飲んだくれの僕がどうなるものか
新しいシルクハットのようにそいつを手に持って
持てあます
それだけのことではないか
ああ
そのとき
この世がしんとしづかになったのだった
その白いビルディングの二階で
僕は見たのである
馬鹿さ加減が
ちょうど僕と同じ位で
貧乏でお天気屋で
強情で
胸のボタンにはヤコブセンのバラ
ふたつの眼には不信心な悲しみ
ブドウの種を吐き出すように
毒舌を吐き散らす
唇の両側に深いえくぼ
僕は見たのである
ひとりの少女を
一世一代の勝負をするために
僕はそこで何を賭ければよかったのか
ポケットをひっくりかえし
持参金付の縁談や
詩人の月桂冠や未払の勘定書
ちぎれたボタン
ありとあらゆるものを
つまみ出して
さて
財布をさかさにふったって
賭けるものが何もないのである
僕は
僕の破滅を賭けた
僕の破滅を
この世がしんとしづまりかえっているなかで
僕は初心な賭博者のように
閉じていた眼をひらいたのである