一瞬の風になれ 第一部 -イチニツイテ-

 とにかく読むのがキツかった、しんどかった。

 『桐島、部活やめるってよ』のとき以来だよこの辛さ。リズム感のない若者言葉の一人称は読みづらいのだよ。片言の日本語。言葉選びにもセンスを感じないし。

 40過ぎたオバサンが若者に寄せて頑張ってるなーというのと、キッツーとの半々だなぁ。

 「スムーズ」を「スムース」と言うのが何となく年配者っぽくてどうにかならんかったかな。正しい英語の発音は濁る「ズ」だと思うんだよね。太田光が「スムース」と言ってたような気がするし、40歳以上と以下で違いがありそうな気がする。まあ、実際には年代差などないのかもしれないが、「スムース」って言葉が出るたびにイライラしたなー。


 とまあ、文章面には感心するところが一つもなく、小説を読む醍醐味の一つが味わえなかったのだが、一方、娯楽小説における肝心要の内容、ストーリー展開もまた面白みがなかった。

 さすがにラスト数十ページは集大成で盛り上がりはするものの、それまでの過程が極めて退屈だし基本的に平凡な、フツーの話。

 物語で一番大事なのはキャラだけど、人物が薄っぺらで魅力的でない。

 メンバーから外された連中は嫉妬に狂うはずだし、恋をして悶々ともするだろう。青春というのは一見爽やかに見えて、薄皮一枚剥がせばグジュグジュだったりするものだし、それがあってこそ青春は輝くものではないかね。

 印象的なシーンが一つもなかった。とにかく才能があって、その才能が日々の練習によって開花し、レースに勝ちました、チャンチャンってだけだからね。物語を濃密にするのは、本筋以外の、枝葉の部分の充実。好きな女の子とのエピソードが兄貴の試合見に行った程度ってさ。そんなどーでもいいシーンばっかり。キャラもイイ子ばかりでリアリティがなく感情移入できないし。


 この程度の文章と内容だと、余裕で漫画に負けるよね。

 陸上よりマイナーな競技カルタを題材にした『ちはやふる』のほうが遥かに面白いよね。

 直木賞の選評で北方謙三さんが「汗の臭いがしない」と否定的見解を示していたが、同じく汗の臭いのしない『タッチ』なんて最高の青春物じゃない。あだち充の間、ユーモアセンスは抜群。あえて台詞を排除したコマわりとかさ、文学的ですらあるよ。かたや、『一瞬の~』は道化役に関西弁のやつ出すとか安易だしスベってるよ。汗の臭いとか以前に、ほんと、センスを感じない。


 小説でしか、文字でしか表現しえないものがあると思うし、それこそ小説の最大の強みなわけで、この程度の作品に賞を与えること自体が小説がオワコン、漫画>小説という図式が揺るぎないものであることの証左。

 だから称揚した宮部さんにはガッカリだね。この作品以上のスポーツ漫画なんて腐るほどあるよ。選考委員の作家先生方たちよ、もっと漫画読めって感じだね。


 各巻の厚みのいびつさも気になったな。書き下ろしなのにさ。まあ重箱の隅つつきだけど、本編も入部のとこから始まって順々に、だらだらと続いたので、構成力はない作家といえそう。

 100mの最後は減速してるってのは知らなかったので、それが知れたのは良かったかな。



   48 点





ジェノサイド

 著者の作品を読むのは『13階段』に続いて2作目。

 直木賞の下馬評で本命と目される向きもあったが、その評価が妥当と思えるほど面白く読めた。


 『13階段』の感想では、前置きが長すぎる!と評したけれども、『ジェノサイド』は冒頭からフルスロットルで心をがっちり鷲掴み。密度が濃く、娯楽作品として高い水準にある。

 ただし、前半から中盤にかけての熱、盛り上がりが、終盤にかけてどんどん弱まっていくのが一番の欠点で、非常に残念。

 直木賞選考での桐野夏生さんの、「手に汗握って読んでいるうちに、物語の収束点が見え過ぎてスリルが失われる。新薬は生まれ、新種の生物は助かるだろう、と。彼らがどんな生物なのか、また日本にいる生物はどうなのか、もっと知りたかった。」という評に同意。

 とくにエピローグの弱さは目に余り、終わりよければ全てよし、という観点で評価するなら×印だろう。


 それと、

 ネトウヨが怒る内容だろうなーと思いながら読んでいたのだが、案の定アマゾンでそういった意見が散見された。

 作者の側に立つならば、

 善の日本人大学院生と悪の日本人傭兵の対比、

 歴史的背景から、日本人と韓国人の協力を描きたかった、といった意図があったのだろうが、

 一方で必然性が感じられない描き方もあり、過度の自虐的な贖罪意識という意見が出るのも仕方ないかな。

 そもそも理系の大学院生が南京事件など知っとるか?

 そして、反日教育によって大なり小なり韓国人は日本人に悪感情を抱いている。

 韓国にいた時は非道な国だと思い込まされてたが、いざ日本で生活してみると皆親切にしてくれるしイメージと全然違ったというようなことをパク・チソンが述懐してた気がする。

 あまつさえ、日本のこと恨んでなきゃいいな的なことを研人に思わせるって作者の頭は大丈夫か?という気にさせられた。

 近現代史を知らない日本人と、日本に対する劣等感から怨念めいた歴史教育をする韓国。これが日韓の現実。

 ゆえに、私は途中で正勲が裏切る、もしくは仲違いする展開を予想した。そうした紆余曲折の末の和解という展開。

 が、最後までこの韓国人はひたすら「いい人」のままだった。

 描くなら徹底的に本質を描くべきで、偏重で安易な道具立ては浅薄で感心しなかった。

 

 南京での日本兵の残虐ぶりや子供を殺しまくる日本人傭兵ミックを描くことに対して自虐的だと憤慨するネトウヨの気持ちがわからんでもない。

 そう、ミックの扱い方は酷かった。おそらくは家族を殺してるのだろうが、そのような状況に至った背景が一切描かれないので、ひたすらイカレた日本人。父親に対するコンプレックスなどの背景が描かれたブッシュたるバーンズとは対照的で、作者として怠慢と言わざるを得ない。

 なにより、イエーガーが自分の子供を救うためにアフリカの子供兵を殺す姿を描いた方がよほど意味があったのではないだろうか。

 狂ったように子供兵を殺しまくる日本人ミックにキレて射殺するアメリカ人イエーガーが、自らの行為に罪の意識を感じるという、ぬるさ。どうせなら自分で殺して業を背負っていくのが筋であり、欺瞞という他ない。

 『13階段』の感想でも書いたが、作者の、道徳の教科書的な描き方は今回も鼻白む思いがした。


 とはいえ、やはり冒頭からの「おもしれー」という思いでページをめくった体験は強く残っており、全体としては満足のいく作品でした。



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予知夢 (文春文庫)

 深夜、16歳の少女の部屋に男が侵入し、気がついた母親が猟銃を発砲した。とりおさえられた男は、17年前に少女と結ばれる夢を見たと主張。その証拠は、男が小学四年生の時に書いた作文。果たして偶然か、妄想か…。常識ではありえない事件を、天才物理学者・湯川が解明する、人気連作ミステリー第二弾。


 TVドラマ第2期もやってるし、ちょうど図書館にもあったから借りてみた。

 先にドラマ観て話の内容を知ってしまっているので新鮮味はないし、短篇としてとくに優れているとは言えないけれども、端的でわかりやすくて、著者の強みが十全に発揮されている。

 前作の『探偵ガリレオ』がどうだったか既に忘れてしまっているのだけれど、こっちのほうが良かったような気がする。


 『夢想る』は、堀北真希可愛かったなぁ、と、堀北ファンなのでそんなことを思い浮かべたり、

 『絞殺る』は、作者としては変えずにドラマ化して欲しかったのではなかろうか、とくに話の閉じ方、などと思いながら読む。

 『絞殺る』に比して『予知る』のラストが個人的には極めて陳腐で興醒めな思いがして、短編集としての読後感がすこぶる悪くてすっきりしなかったかな。

 

 現在放映中のドラマのほうは1期に比べて面白くないね。

 もはや新鮮味がなくワンパターンで飽きたってのもあるけど、たとえば1、3話での機器を用いての犯行というのがすごく短絡で、個人的につまらなかったのよね。

 はたして小説ではどんな印象を持つのか。

 まだ『容疑者Xの献身』すら読んでないので、読むのはまずは『容疑者~』からだけど。

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キャリー


 スティーブン・キングはスタンド・バイ・ミーしか読んでおらず、いまさらのキャリーでもあるのだけれど、普通に面白くて、なるほど、そりゃベストセラーになるよなぁなんて、ほんといまさらの感想。

 比較的最近読んだものでは『新世界より』がそうだったけど、あらかじめ悲劇的な結末がわかっている描き方の効果というのもあって、その場面まで早く辿り着きたいとページをめくる原動力になる。

 引用を挟みつつテンポよく進んでいくので、元来翻訳物が苦手な私ではあるが、すいすいと読めた。

 プロットの甘さ薄さは感じるのだけれども、それは野暮だろう。娯楽作としての受け手へのサービスがきちんとなされていて、最初から最後まで愉しかった。

 他のキング作品も気が向いたときに読んでいこうと思います。

 翻訳なので採点はなしで。


高村薫『照柿』

 異質さゆえ、互いから目を逸らせぬまま成長した幼馴染は、それぞれの足で大阪から東京へと辿りついた。八月二日夕刻、合田雄一郎警部補は電車から女性の飛び込みを目撃する。現場より立ち去ろうとしていた佐野美保子との一瞬の邂逅。欲望に身を熱くした。旧友野田達夫との再会は目前に迫っていた。合田、野田、美保子、三人の運命が、溶鉱炉の如き臙脂色の炎熱の中で熔け合ってゆく。


 とにかく、長かった。うんざりするほどに。

 高村薫作品は幾篇か読んでいるけれども、ひたすら苦手だ。

 筆力はあるけれども、鬱陶しい文章。
 とりわけ本作は娯楽作というより純文学寄りで、なおのこと苦痛だった。

 つまらない、と断罪はしないまでも、果たしてこれだけの長さが必要だろうか?

 こんなもん、短篇か中篇で済む内容だよ。

 たとえば、桐野夏生『柔らかな頬』や北方謙三『擬態』なんかと比べると、相当質が低い。

 同じことをくどくど繰り返し描くばかりであまりに無駄が多い。

 その内容ゆえに、これだけの長さ、醸成が必要と擁護できなくもない・・・・・・いやいや、やはり冗長だ。

 読後感は悪くないが、これだけ言葉を浪費して得られるものの薄さに徒労感ばかりが先に立ち、つまり語れば語るほど本質から離れていくわけで、やはり短篇か中篇で済む話だと思われる。


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