半落ち・横山秀夫 の解説 | まさひこのの書評と解説のページ

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僕が読んだ本についての、書評と解説を書いてみました。

 

◆ 己と保身との戦いの話。明日は我が身か……

 

 ── 志木はごみ箱を蹴り飛ばした(16ページ)……模範となるべき警察官が乱暴だな、おい(笑)。

 

いよいよ連続少女暴行犯宅に操作一係が踏み込む時がきた。W県警本部捜査第一課のデスクで、志木は、犯人確保の報告を待っていた。が、突入してみると、犯人は劇薬を飲んでいた、という。だが、その知らせ直前、W県警のお膝元、W中央署からの驚きの知らせも受けていた。本部教養課次席の梶警部が、病苦の妻を殺した、として中央署の方に自首してきた、という。暴行犯の件にあたるはずが、W県警のトップの命により、志木は、梶の取り調べに駆り出されることになった。

 

元取調官で「落としの志木」と異名をとるほど、取調官として抜きん出た実績を有していて、それで期待されたというわけである。志木はW中央署に入り、補助官の山崎(阿吽の呼吸の通じる仲)、さらに警務部からの余計な補助役の栗田(サンダーバードの操り人形、ってところが良いですね!)とともに、梶の取り調べを始める。

 

梶は、語り始める。息子を十代で亡くし、妻は数年前よりアルツハイマーを患っていた。三日前の12月4日、半狂乱になった妻の状況に耐えかねて、ついに手にかけてしまった。犯行に至る経過や犯行時の状況については語るのだが、自首するまでの二日間のことについては「そっとしていただけないか」といって、決して語ろうとしない……。

 

 

── 志木の豹変ぶりに、栗田だけでなく、おいらも縮み上がったぞ😱

 

梶の自宅が家宅捜索され、彼のコートのポッケから「個室ビデオ」の宣伝ティッシュが見つかった。殺害後、歌舞伎町に行ったか。志木は、梶の自宅に行き、重要な手がかりをいくつか得た……。

 

 

──「まさか、向けて調べろって言うんですか」「嘘でも何でも喋らせろ!」保身に走ったトップどもめ!

 

残念ながら、志木は、翌朝、取調官を解任されてしまう……。

 

 

12月8日。W地方検察庁舎。佐瀬検事。彼も、梶の「事件後」に疑問を持つ。そして、県警上層部は組織ぐるみで梶の「事件後」の捏造をはかっているのではないか、という疑いも抱く。梶への取り調べが始まる……。

 

 

県警幹部が起こした不祥事により、マスコミが騒ぐのは必至であり、県警は大揺れだ。県警お偉方の立場としては、二日間の空白について、妻の死体に寄り添っていた、家にこもって自殺しようと悶々としていた、死に場所求めてさまよっていた、ということでおさめたいのだ。死体を放置して歌舞伎町に行ったなどということが知れたら、イメージが悪すぎるし、打撃が大きい。(でもさあ、それ、そもそも隠すほどの案件か、とも思うよ。どこへ行こうが個人の自由だし、けしからんというのなら、そこも個人の問題である。公表しても別に構わないのでは……?)

 

そんな隠蔽の姿勢に対抗して、筋を通そうとするのが、志木や佐瀬、ということである。その攻防の展開が、緊迫感と危うさの波に揉まれて、読む手を萎えさせない。そして、梶の瞳の、澄みきった「妖しい」力に男たちは翻弄されて、危なっかしい。

 

 

そしてまた、これは己と保身との戦いの話であるから、見逃せないし!明日は我が身か……。

 

 

☆ 半落ち・横山秀夫・講談社・2002年9月刊行。講談社文庫・2005年9月。