RESPECT

 ブレイディみかこ

 筑摩書房 202387


「あたしたちが求めているのは、少しばかりのリスペクト」


舞台はロンドン、「ソーシャルクレンジング」の名のもとに推し進められるジェントリフィケーションで、住む場所を奪われた母親たちは立ち上がる。2014年にロンドンで実際に起きた占拠事件をモデルとした作品。



「いつもビクビクして黙っていると、あたしやあたしの赤ん坊のような人間は存在しないものにされてしまう。おとなしくしているからいいんだと思って、どんどん生きるために必要なものを取り上げられてしまう。」

-p. 11


「貧しいということは単にお金がないということだけではない」


「それは、それが理由でほかの多くのものまで奪われている状況だ。いま知っていること以上の何かを教わる機会や、こことは違う新しい環境に出会うチャンス、自分にたいする自信とか、明日やあさっての生活への安心とか、他人を信頼する勇気」

-p. 207


「リスペクトのないところに尊厳はない」

「尊厳のないところで人は生きられない」

-p. 209


『理不尽に感じることや不公平を感じることにムカついたり、これは間違ってるんじゃないかと思うことがあっても、しょうがないと思って流してきた。』


『無駄だって思うことが賢い大人のすることだって信じてた』

-p. 263



本書にもあるが、権利って何だろうと考えることが最近多い。そして、私自身も含め、日本の人たちは権利や自由を脅かされることに慣れすぎているような気もしている。そのためなのか、権利や自由求めて声を上げる人がいると、


「周囲の迷惑を考えろ」とか

「和を乱すな」とか


周囲から責められることが多い(いつも同じことを書いている気がするが)。


物語の中にもあったが、生活保護受給者について


「ずるい」

「迷惑だ」

「怠けている」

「税金の無駄遣い」


というような声も根強く、本当に必要な人が受給に踏み切れない現実もあると聞く。


体調を崩すことや心のバランスを崩すことは誰にでもあるし、周囲の助けを得られず無理をすれば、不調が長引くこともあるだろう。そんなちょっとした躓きで貧困生活に陥ってしまった時に行政に頼って立ち直るのは、全ての人に認められた権利だし、立ち直ってまた納税できるようになれば、そのお金がまた他の人のために使われる。



もちろん不正受給や受給したお金を他のことに使ってしまうなどの問題があるのは知っているが、それは制度が正しく運用されていないという別の問題だと思うので、正しく運用できるよう、支援が必要な人に届くように見直しをすればよい。


バブル景気で、いわゆる「普通」の人なら誰でも職にあぶれることなく「人並み」かそれ以上の暮らしができた時代が終わり、助けを必要とする人が増えて以来、為政者たちは「自己責任」という言葉を振りかざし、困ったことがあっても「世間様に迷惑をかけるな」「身内同士でなんとかして」というような態度を取り続けた(今もまだ取り続けている)。その結果、以前にも増して殺伐とした社会になってきた。


現在のような失敗の許されない社会から、失敗しても立ち直ることができる、やり直すことのできる社会に変えるのは難しいに違いない。だけど国民のために働かないのなら、政治家って何のためにいるのだろうか。


などと言いつつ、私自身ジェントリフィケーションについては「知っている」つもりでいたが、インフラ整備や公共施設などの新設などで街が再生し、文化的、経済的に発展する、住む人の生活水準が上がる、不動産の資産価値が上がるなどの良い面ばかりに注目していた。人為的に地域の価値を上昇させ、不動産価格が高騰したら、不動産の所有者はよいが、賃借していた人たちは家賃を払えなくなって、事実上追い出されているという事態を、住民の立場で考えていなかった。


日本でも同様のことは起きていて、それによって生活をおびやかされている人がいるはずで、また生きている以上、自分もまたいつそのような状況に陥るかわからないのに、関心を持たずにいたことを深く反省。


ブレイディみかこ先生らしい、平易な文体でテンポよく書かれており、登場人物の過去、現在の状況や心情に関する描写も丁寧に描かれ、話の筋も追いやすいので、若い世代の方にも読みやすいのではないかと思う。たくさんの人に読まれて欲しい一冊だと思う。