#NetGalleyJP さんで読ませていただいた、

『母は死ねない』

 河合香織

 筑摩書房 2023313



「彼女たちは私の友人であり、隣人である、どこにでもいる母であり、母とは何かを考える女性たちである」


「母」を切り口に描き出すさまざまな女性の育児と生き様。


 


「母親である自分のせいで、子どもが仲間はずれになったらと思うと、胸がつぶれる思いがする」

-p. 73


「変えられることと変えられないことを合理的に分けて考えている」

「障害は変えられない。でも、社会や自分の気持ちは変えられる。」

-p. 97



「二者択一だと思うから、もう一方を理想化する。でも人生はいくつもの道に分かれている。一生懸命考えて決めたことであれば、間違っていたと思う瞬間があったとしても、結果的にあの時の決断は間違っていなかったと考えられるのではないか」


「母だからかくあるべきというところから自由になった方が母も子も幸せに違いない。」

-p. 213

 

「子どもは母と一体化した相手ではなく、自分の思いどおりにはならない他者である。もどかしく、時に喜ばしく思いながら、そのことを心から知ることで、互いの人生を認め合う関係が築けるのだろう。」

-p. 215


 


自らも「母」である著者が取材するさまざまな「母」のお話。


DV、妊娠、出産、子供の難病や障害、失踪、犯罪被害、死、ママ友関係、自らの障害、章ごとにさまざま「母」が登場し、その姿が語られる。


前情報を入れずに読んだので、初めは自分が何を読んでいるのかよくわからなかったが、


「私が彼女だったかも知れない」

「彼女は私だ」


と思えるようなところも多く、たちまち引き込まれてしまう。


子供を持って、その子の持つ特性に気づいて寄り添うようになって初めて世界の見え方がかわることもある。これまでにないほど思い悩むこともあるだろう。


あるいは例えば子を持つことができないことを通して、子を失うことを通して見える世界もあるのかも知れない。


この作品ではさまざまな境遇にある母を媒介に、そのさまざまな悩みや気付き、喜びや悲しみ、怒りや迷いを通して、生死について、世間や社会のあり方について疑問を投げかけ、深く考える機会を与えてくれる。


「私だけじゃない」と励まされる部分もあるが、共感が止まらず身につまされすぎて辛いところもあった。


シンプルで読みやすい文章なのだが、短い中に母の喜びや悲しみ、苦しみや怒り、悩みや葛藤がギュッと凝縮されていて、ゆっくり、ゆっくりとしか読み進めない。だけど読み終えて大きなため息、読めてよかった。


読んでいて本を投げ出したくなるところもあるかも知れないが、読み始めたならぜひ、最後まで読んでみてほしい。