この世の喜びよ』

 井戸川射子

 講談社 202218


子育て中によく通ったというショッピングセンターで働く「あなた」はある日フードコートで少女と出会う。他2篇の短編が収められた一冊。



「あの子たちのことを考えると、息がしにくくなるので胸が痛む。もちろん楽しく過ごしてほしいけど、楽しくできるのはもう私ではない」

-p. 53



「手に何も持っていないことに慣れず、私は一人で歩く時に、両手をどう振っていたんだっけと思った」

-p. 104



淡々と独白のような調子で続く語り口、読み始めてすぐ好みだとわかった。


なんとはない回想のような、とりとめのない日常の感想のような文章が、流れるように続くのだが、ふとした言葉が自分の呼吸に乗ってスッと身体の内に潜り込んで来て、心のどこか、何かを刺激するらしく、たびたび胸がいっぱいになったり、詰まったり忙しかった。


読み終わって即、また最初から読み直したくなる、そしてその後さらところどころ読み返したくなる不思議な作品。


ヴァージニア・ウルフの「意識の流れ」という手法は、こんな感じなのかなとふと思ったが、格調の高い作品はほとんど読んだことがないのでよく分からない(文学部ちゃうし)。


今年は挑戦してみるのもいいかも知れい。


表題作と共に


『マイホーム』

『キャンプ』


という短い作品が2篇収められていて、どちらも好きだった。