『春に翔ぶ』 凪良ゆう

「自分を生きたかったのだ。他の誰でもない、この世にただひとりの自分として。」


のスピンオフ中編、『小説現代』に掲載されているということで借りて読んでみた。


「みんな気付いていた、特別高望みはしていない、輝かしくもない、ごく平凡で平均的な未来ですら、一度でもつまずいたら手に入れられるない。そんな危うい場所に自分たちがいることを──。」

「今の時代、善であることと弱者であることはときに同じ意味を持つ。」
「盾を持たない善人として搾取されただけだった。」
「みんなに感謝されながら、どこかで侮られていた。」
-p. 249



「こんなぼくを、どうか愛してください。ぼくは、あなたたちを、精一杯愛していたのです。」
-p. 264


北原先生を主人公とした物語。若い教員であった先生の心情や葛藤が丁寧に描かれていて、グッと心を掴まれ、引き込まれてしまう。

私の親はゴリゴリにお堅いが、悪人ではなく、子供から見て「バカ」だとか「カッコ悪い」と思うような大人でもなかったため、私は表立って反抗する「大義名分」が得られず、スクスク成長してしまった。

その後盛大に暴れて今に至るが(←端折り過ぎだが)、なかなかに窮屈な子供時代、青春時代を過ごしたため、自分の子供には子供らしくのびのびと育ってほしいと思って育てているが、あまりにのびのびしてくれると、不安になってしまう小心者の私…。

この中編には、そんな私の中の子供の部分と大人(親)の部分、両方を刺激するところがあり、読後もアレコレ考えるのが止められないでいる。

『汝、星の如く』は単独で充分胸に響き、心に沁みて、読後の満足感も高く、余韻も尾を引く作品だったので、スピンオフは読まなくてもいいかな、と思っていたけれど、北原先生について知ることで、本編に対する理解や味わいが深まった気がする。