『鎌倉燃ゆ 歴史小説傑作選』 細谷正允 編
(PHP文芸文庫2021年9月21日)
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鎌倉幕府成立前後という策謀渦巻く時代を、7人の作家(侍ではない)、
谷津矢車
秋山春乃
滝口康彦
吉川永青
高橋直樹
安部龍太郎
たちが、
北条義時
静御前
大姫(源頼朝&北条政子の娘)
曾我兄弟
梶原景時
源頼家
畠山重忠
源実朝
を主人公に描くアンソロジー。
『先に地獄で待っておるぞ……うぬらも間ものう来ようほどに』
-p. 290
「将軍が日の本の武士の頂に立ち、鎌倉に政集約され、すべてが変わった。」
「腹黒い大人たちが、幕府の中枢に座り、他者を追い落とす。武功で名を挙げる日々は遠くなり、奸智に長けた者が力をえる醜き世となった。」
-p. 346
「武家が政権を握っているかぎり、血の抗争が続く。それくらいなら源氏が亡び、朝廷に政権を返上したほうがいい。」
-p. 363
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各話の登場人物が、他の作品に登場したりするので、人によっては何度も何度も「こんにちは」になるのだけれど、誰の視点を取るのかや、書き手さんによって、まるで違った人物像になっていたりしてとても興味深く楽しめた。
この一冊を読めば鎌倉時代成立期のものごとの流れや主だった人物たちがよく分かる(気がする)満足感の高い作品。
いかにも、もののふらしい無骨さや、歴史小説らしいいかめしさが文章にも溢れていて、「歴史小説を読んだぞ」という気がした。
昨今は読みやすい表現で綴られる時代小説や歴史小説も増えていて、そちらもとても良いのだけれど、昔ながらの堅い感じも私は好きだな。