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『平場の月 』朝倉かすみ
(光文社 2018年12月20日)
50代、それぞれに恋をしたり、家庭を持ったり、色々な経験を経た元同級生が、ある日偶然再会し、互いに距離感をはかりながら、特別な関係を築いてゆく。
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「片付け物をしていると昔の写真が出てくることがある。写真のなかの自分の若さにぎょっとする。」
「写真の中の自分は、いまの自分より若かった。このまま知らずに老けていき、立派なじいさんになったとき、気づいていないのは自分だけという事態になるかも知れない。」
-p. 52
『充分助けてもらってるよ。』
『甘やかしてくれる。この歳で甘やかしてくれるひとに会えるなんて、もはやすでに僥倖だ。』
-p. 146
「忘れないために覚えたのではなかった。」
「目が勝手に覚えようとしたのだった。」
「青砥の目は覚えたがった。」
-p. 180
「『くだらねー』と独りごちても、胸いっぱいに広がった、歯に染みるほど甘い想像を折り畳むことができなかった。なぜなら、それは、いまからでも実現可能と思えるような、決して夢なんかじゃない、でも夢みたいな、そんな世界だったからだ。」
-p. 198
大人の恋──なるほど。
カーッとなって、メラメラして、ドドーンと体当たりし合うのではなくて、じわじわ手探りで間合いを縮めながら、お互いちょうど良い(と思える)関係を育んでゆく感じなのかな。
お互いに「まっさら」ではない大人同士、それぞれに抱えるものがあるからこそ、どう寄り添い合ってゆくのがよいか悩んだり、関係性が複雑で、選択肢も多く、アレコレ考えてしまうのかも知れない。
だけど、人によっては相手の都合なんてお構いなしにカーッ&メラメラ&ドドーッの人だっているだろうから、結局のところ、こ主人公ふたりは波長が合ったということで…
だからこそ、ほんの少しずつ、何かが、どこかで違っていたら、そんな風に考えてしまったりして、なんだかとても切なかった。
ほぼ口語体で綴られていて、サクサクっと進むが、主人公の心情やふたりの関係性の変化やゆらぎがしっかり描かれているので、たびたび立ち止まって考えたり、いつまでも味わいたくなったりした。
年齢やライフステージがもう少し上がってから読むと、理解が深まるかな。
第32回山本周五郎賞受賞 山本周五郎賞