『スタッフロール 』 深緑野分 

文藝春秋 2022414日)


戦後間もなくのハリウッド、現代のロンドン、ふたつの時代のふたつの街でそれぞれ映画に携わる主人公たちが、自らの才能や評価に悩み、もがきながら、作品と向き合う物語。





「アメリカは自由の国と銘打っているが、特にこの頃、体裁の覆いの下に隠した生々しい現実では、活躍できるのは主に白人で、異性愛者の男性ばかりだった。映画業界でも作品で謳うような平等社会からはまだ遠く、賃金も違えば、待遇にも差があった。」

-p. 169


「彼らは私と同じなのだ。同じように映画を愛し、クリーチャーに血を通わせるために努力「続けている。それなのに自分は、コンピュータを相手にする人たちに、クリーチャーを生み出す喜びがわかるはずがない。どうせ無機質なものしか作れないし、理解もできないだろうと思っていた。思おうとしていた。」

-p. 202


「表現者によって表現物は自分自身のすべてを懸けている場合が多く、ただでさえ、作品を否定されれば自分まで否定されたような気分になってしまうのに、公の前に引っ張り出されて審判を下されなければならないのだ。」

-p. 244


「手応えや賞賛よりも、毎日毎日これを続けていく感慨のなさに慣れ、しなやかで良い作品を安定して生み出していけたら、それでいいのではないか。」

-p. 464


ホラーにもSFにも親しんでいないので(控えめな表現)、特殊造形技師、CGクリエイターと聞いても、何をどうするお仕事なのか全く分からない私だけれど、仕事の工程や手順など、丁寧に説明されているので、よく分かった気がして楽しめる。


自らの世界を選び、その世界からも選ばれ、認められて、名を残せるような、一流の、一握りの人たちのお話だとは分かっていても、ひたむきに作品に向き合ったり、周囲の誰かと自らを比べて嫉妬したり、反発したりする姿に共感しまう。


それにしても、もともと日本語で書かれている(はず)なのに、英語で書かれたものをとても上手に和訳されているかのような不思議な文体だ。お陰でニューヨークやロンドンで活躍する登場人物たちが生き生きとイメージできるし、作品の雰囲気にも合っていてとても素敵だと思った。


翻訳作品をたくさん読んでいた頃は、その独特の言い回しや雰囲気に魅了され、行間からも滲む外国や外国文化の気配に、広い世界への憧れを膨らませていたように思うが、久しぶりにそういう気持ちを思い出した。初めましての書き手さんだったが、他の作品も読んでみたい。