『思春期のしんどさってなんだろう』
 鴻巣麻里香
 平凡社 2023年6日21日

「思春期は難しい時期」でもその辛さは全て思春期のせいなのか?


・人権とは「すべての人が生まれながらに持っている『ありのままの自分』を大切にされる権利、そのためにひとりひとりの安全(安心)と尊厳(自信)が守られること。校則では人権が軽んじられている。TPOに沿った服装はマナーだが、マナーは人権より大切なものではない。

・学校ではたいていクラスや部活で一体となって何かをやり遂げた達成感や仲間意識を持つことがよいこととされ、生徒に同じであること、逸脱しないことを求める傾向にあり、異質な存在を排除するようないじめが起こりやすくなる。

・合わない相手、好きになれない相手がいるのは自然なことだから、子どもにとって大切なのは、「みんなで仲良く」ではなく自分と誰かのあいだの心地よい境界線がどこにあるか、少しずつ気づいていくプロセス。それが自分も相手も尊重するということ。

・いじめの問題は「見て見ぬふりをしてはいけない」ではなく「私も誰かをいじめてしまう可能性がある」というところからスタートしないとなくしていけない。

・身体つきなど、容姿についてジャッジしたり揶揄したりするのは「加害的な行為」だが、それを教える大人が少ないため、加害側は「そういうお年頃だから仕方がない」と許され、被害側が「気にしすぎ」と片付けられることが多い。自分が直接被害にあったわけでなくても傷つき、学校に行けなくなる子もいる。

・部活など、学校での活動中に、気分が悪くなったり、怪我をしたりした際、教師や監督が「たいしたことない」と取り合わないことがある。医療のプロフェッショナルでもない大人が自己判断で休ませない、病院に行かせないなどというのは、子どもの生きる権利を損ねる行為。

・子どもが体調や心のバランスを崩しているのに、保護者が医療機関を受診させないのは医療ネグレクトという児童虐待。

・児童手当やひとり親家庭支援など、制度はあるが、給付は親経由で子どもにお金が直接渡らないために苦しむ子どももいる。リコーダーや体操服など、必ず必要なものは無料でもらえる、日々の食事は提供されるなど、支援の方法を変えてゆくべき。

・家庭での意見表明は「参加する権利」、それを軽んじられれば、子どもは口を閉ざすか反抗するかになってしまう。

・ヤングケアラーの問題は、大人が子どもの遊ぶ権利、学ぶ権利、自分の意見を述べる権利などが侵害されていることに注目せず、ただ「かわいそう」「えらい」という反応を示すことで、子どもたちはその役割に固執するしかなくなることもある。

・体罰やいじめなど、大人は子ども時代の辛い体験、苦しい体験を生き延びた後、自らの経験の価値を下げないよう「つらいけれど価値ある体験だった」と記憶する。そのため子どもたちにも苦痛に耐えること、乗り越えることを求めるようになる。大人の「きびしくされたけどよかった」「つらかったけど楽しかった」には耳を貸さなくて良い。

・「あなたのため」「大事だよ」「愛しているよ」と言われたとしても、その人が自分に対してどんな振る舞いをしているかをよく観察することが大切。相手が誰でも「この人がしてくることはつらい」と感じたら、必ず行動を注意深く見よう。離れた方がよいこともある。

など、「思春期」といわれる年代の子どもの心に寄り添う言葉や的確な助言が満載。



また大人に対しては、

・性別による役割分担の押し付け
・男女別に分けられた服装や活動
・男は男らしく、女は女らしく、学生は学生らしく、子どもは子どもらしく、などの「らしさ」の押し付け
・頭髪指導や制服の強制などの「生徒指導」や「生活指導」
・あらゆることを評価される
・プライバシーを侵害される
・休日の予定を決めて従わせられる
・反対意見を受け入れられない
・ルッキズムなど、容姿に関連した「こうあるべき」という刷り込みや、からかいなどの否定的なメッセージ、ネガティブな言葉や不当な評価にさらされる
・SNS、マスメディアに氾濫する性的な広告

などなど、子どもたちは日々多くの不条理に晒されていて、そのほとんどは大人であっても疑問や不快感を感じるようなものであると指摘。たしかに当然の反発を「反抗期」「思春期」と一括りにするのは乱暴かも。

併せて、

・大人はよいことをすることも大切だが、それよりも子どもの害になることを「しない」ことがまず必要。容姿や体型についてコメントする、性差で役割を決めつける、不必要に無断で身体に触れる、趣味や予定を押し付ける、秘密を持つことを禁じる、苦労話や我慢話をする、取り引きする、約束を破る、イライラを態度に出す、話を聞く前に決めつけて叱る、まずはこれらを「しない」ようにしないと、子どもたちの「敵ではない大人」にはなれず、味方や理解者になりようもない。

などの記述があって、なんだかものすごく反省。日本の子どもは幼い頃から「YES」と言う訓練を積まされていて、親はその片棒を担いでいるようなものだと気付いて愕然とした。

「思春期」についての考え方がガラリと変わる一冊。