須賀しのぶ◇革命前夜◇ | 星よりも大きく、星よりも多くの本を収納する本棚

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9年間の海外古典ミステリ読破に終止符を打ちました。

これからは国内外の多々ジャンルに飛び込みます。




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揺れる東ドイツ。まさに世界が変わる前の夜を踠き足掻く眞山はある日"運命"に出逢うーーー





◇革命前夜◇

須賀しのぶ



バブル期の日本を離れ、東ドイツに音楽留学したピアニストの眞山。個性溢れる才能たちの中、自分の音を求めてあがく眞山は、ある時、教会で啓示のようなバッハに出会う。演奏者は美貌のオルガン奏者。彼女は国家保安省の監視対象だった…。冷戦下のドイツを舞台に青年音楽家の成長を描く歴史エンターテイメント。大藪春彦賞受賞作!



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東ドイツに着いた日に昭和天皇は崩御、元号は「平成」に変わったーーー眞山柊史はバッバを学ぶ為、あえて東ドイツ、ドレスデンに留学した。



元々持っていた寂寥感を抱えた孤独な日々はハンガリーからの留学生、ヴェンツェルの出会いで振り回される方向に向かう。彼は性格は傲慢、自分勝手の塊だが天才的な才能の持ち主だった。しかしそのヴァイオリンは周囲を圧倒させる。柊史はヴェンツェルに完膚なきまでに叩きのめされて自分の音を見失う。



しかし例え同じ留学生の李に嫌味を言われても柊史にも帰国はあり得ない。得た物が有る。気の合う友人イェンツとガシュ、亡き父の友人家族、そしてクリスタのオルガン。



柊史はクリスタのオルガンに惹かれ、彼女に近付くがけんもほろろ、しかも警戒される。だがそれには切実な理由があった。

1989年、DDRの統治体制は限界に達していた。思想と移動の制限はとりわけ厳しく、シュタージーーー秘密警察がどこにいるか、何になりすましているか分からず、人民は密告に怯えるか警戒するしか無い。友人夫妻の秘密を知った時、クリスタの過去を知った時、ヴェンツェルに起こった事件を知った時、柊史は思い知る。秘密警察は彼の身近にいたことにーーー



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「革命前夜」です(・∀・)

2作品続けて日本人作家です。年末年始は帰省していたのですが、荷物を軽くするために本を最低限しか持って来なかった為、親が「これ、面白いよ」とこの本を貸してくれました。



確かに面白い。イデオロギーが、故国の内情が詳らかになると日本人の甘さ、というか無知と何も考えていなさが露わになりますね。確かに今まで必ず持っていなきゃダメなこと無いしな……柊史と関わる留学生は北朝鮮とベトナムからなのでもはや言うまでもない。忘れがちだけどベトナムも社会主義国なんだよな。



留学生を受け入れる、移動も可能、一見平和だ。だけど絶対に警戒を怠ってはいけない、何故なら秘密警察シュタージがどこにいるか分からないからーーーこの空気、どこかで感じたような、と思ったらこれだ。この話も過去の舞台はライプツィヒで思わぬ身分の人をシュタージのスパイ、または密告者にするところが同じです。本書の方が誰でも密告者で有る、というところが強調されてより不気味です。そんな中にほとんど無知なまま飛び込んでたった1人で真実と対峙する柊史の勇気、というか冒険たるや……!!



音楽青春はひたすら破壊的な天才型ヴェンツェルを中心に繰り広げられます。多分こいつで無かったらもっと平和だったと思いますが、前半と後半でがらり、と青春の色は変わります。そこにはイデオロギーは無いように見えますが、むしろそれがあったら彼らはもっと楽になれただろう。無かったからこそ全員が罪と罰を背負うことになった。犯した罪を償う対価は重く、ある意味永遠永久に「失う」ことが罰だ。過不足なく、等分に。



青春は残酷と言いますがまさにそれを地で行く中で最後の場面は全てにおいての希望だ。近くない未来、あの音楽があの時の仲間の心を1つの場所に連れて行ってくれるだろう。「近くない」、と言ったのはその演奏会そのものが「罪を償う」ことであり、短い時間で罪を償うことは不可能だからだ。



「革命前夜」でした(・∀・)/ 

次は久しぶりのウールリッチです(*^o^*)/