乗代雄介◇旅する練習◇ | 星よりも大きく、星よりも多くの本を収納する本棚

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9年間の海外古典ミステリ読破に終止符を打ちました。

これからは国内外の多々ジャンルに飛び込みます。




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コロナ渦の中、わたしは姪と旅へ出かけた。サッカーと写生と人生のーーーあらゆる「練習の旅」へ。

 

 

 

 

◇旅する練習◇

乗代雄介

 

 

中学入学を前にしたサッカー少女と、小説家の叔父。 
2020年、コロナ禍で予定がなくなった春休み、 
ふたりは利根川沿いに、徒歩で千葉の我孫子から鹿島アントラーズの本拠地を目指す旅に出る。 
ロード・ノベルの傑作! 第164回芥川賞候補作。

 

 

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2020年。小説家で人気のない場所の写生が趣味のわたしには姪が居る。名前は亜美。亜美はサッカー少女で中学受験もサッカーが強いところを選ぶほど熱中している。春休み、わたしは亜美に去年合宿で行った鹿島に黙って持って来てしまった本を返しに行きたいからついて来て欲しいと頼まれる。それなら、と鹿島アントラーズの試合を観に行く計画をたてるが、なんとコロナでその計画はおじゃんになってしまった。

 

 

試合どころか学校の入学も先延ばしになってしまい、宿題だらけで落ち込む亜美を見てわたしはそれなら歩いて鹿島に行こうと誘う。その道中にサッカーの練習をしつつ、鹿島を目指す。姪と2人、途中これまた歩いて鹿島スタジアムを目指すジーコファンのみどりさんも加わって珍道中、けれど何物にも代え難い、忘れられない旅が始まった。

 

 

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「旅する練習」です(・∀・) Twitterをやり始めた頃から気になっていてやっと読むことが出来ました。一時期「群像」を読んでいたのでそこも気になっていました。

 

 

まだコロナがじわじわと染みのように少しずつ広がり始めた頃の漠然とした、不安の中の話です。この直前に家を出たので仕事休み! 自粛しろ! と言われた時は本当に怖くて引きこもっていたので実家から「一回帰って来てなさい」と言われた時は本当に嬉しかったです。不安とあまりにもものを食べなかったせいで体重が激減して家族にどん引かれたことは今だから言える笑い話です←

 

 

小説家の「わたし」と姪の亜美〈アビ〉の旅物語は私のようにどん引かれるようなものでは無く、本当にきらきらと輝く、突然やって来てしまった非日常の中で自分のこれまで、自分のこれからを考える亜美が眩しい。就職を控えるみどりさんは我々のような迷える大人です。これを読むと鹿島に歩きたくなるし、ジーコについて調べたくなるし、野鳥も見たくなるし、文学散歩もしたくなる。この本片手に散歩も良いかも!?

 

……と思っていたのに、ねぇ、待って。待ってよ。どうしてそうなってしまうの。読み終えて息、止まりましたよ。1ページ前はあんなに光り輝いたのに、どうして。確かに読んでいて「わたし」は随分悲しく後悔するのだな、思ったけど……こんな、こんなのって……まるで本を返しに行くのがそのための下準備みたいじゃない。こんなのみどりさんが聞いたら絶望しちゃう。

最後のページで世界がバケツをひっくり返したみたいにがらり、と不安に満ちる様はまるでコロナが猛威を奮って先行きがどんどん不安定になっていくのを予言しているみたいで怖かったです。

 

しかしラストが物語を台無しにしたとは思わない。恐らくこれが芥川賞にならなかった要因は最後だからだと思いますが、これを最上級の明るいものにも出来たのにあえてこうしたのには絶対理由があるので是非それを知りたい。文庫本解説で構わないから。そしてさらに言うならこれが映画化とかされて最後が変わったら、わたしはいたく失望するでしょう。

 

 

最後。この人の文章はどちらかと言うと簡素なのですが、時々格調高い文章や畳み方があるのが良い。現代作家は今年に入ってからぐん、と読む回数が増えましたが、良い経験になったと思います。

 

 

「旅する練習」でした(・∀・)/ 

次は忘れられていたのかレックス・スタウト、お久しぶりのネロ・ウルフ……ではないけど← (*^o^*)/