レオ・ペルッツ◇アンチクリストの誕生◇ | 星よりも大きく、星よりも多くの本を収納する本棚

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9年間の海外古典ミステリ読破に終止符を打ちました。

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図らずも人々に災難をもたらすアンチ・キリストの父親になってしまって靴直しの運命は?

 
 

 
◇アンチクリストの誕生◇ -Herr, Erbarme Dich Meiner!-
レオ・ペルッツ 垂野創一郎 訳
 
 
ある夜不思議な夢を見たパレルモの靴直しは、夢判断によって生まれたばかりの子供が偽預言者アンチクリストだという確信を抱き…。表題作をはじめ全8篇を収録。物語の魔術師ペルッツの魅力が凝縮された傑作中短篇集。
 
 
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1.「主よ、われを憐れみたまえ」
 (Herr, Erbarme Dich Meiner!)
 ……ロシア内乱時代。生きる希望も何も無いヴォーロシンはモスクワで傍受された暗号化電報を解読するよう命令される。ヴォーロシンはその前に1度妻イリーナに会いたいと暇を告げる……
 
 
2.一九一六年十月十二日火曜日
 (Dienstag, 12.Oktober 1916)
    ……大戦で捕虜になったピヒラーは療養所で無聊をかこっていた。患者の観察、会話を経て読み物を欲するが、やがて1916年10月12日の新聞を手に入れる。ピヒラーはそれを歓喜して読み、それこそ暗記し、その新聞の出来事は彼の特別になったが……
 
 
3.アンチクリストの誕生
 (Die Geburt des Antichrist)
    ……パレルモ。人殺しの父親と修道院から逃げ出した尼を母親に持つ、クリスマスの前夜生まれの男の子は人々に騙す偽預言者アンチクリストであるーーー自身の子どもがそれだと睨んだ靴直しはその赤ん坊を始末しようと人殺したちに依頼をするが……
 
 
4.月は笑う
 (Der Mond Lacht)
    ……サラザン男爵は月を怖がるという奇癖があった。それは先祖代々からの抗いでたり、月を見ると狂乱することもしばしばだった。その日、彼は「月が笑っている」と叫びーーー
 
 
5.霰弾亭
 (Das Gathaus Zur Kartätsche)
    ……わたしはかつてフワステク曹長と部下であり、行動の殆どを共にしていた。わたしたちは霰弾亭と呼ばれる兵士たちが集う酒場で出会った。誰からも好かれ、恋人フリーダもいた彼は何故自殺したのかーーー
 
 
6.ボタンを押すだけで
 (Nur Ein Druck auf den Knopf)
    ……わたしは戦争後、妻を娶ったが自分の教養の無さがあらわになって打ちひしがれる。妻はこれから学べば良いと進め、やがてオカルティズムを学ぶことに。そこでは降霊会をやっていてわたしは誰を呼ぶかと問われてまだ生きているはずのケレティ博士の名前を挙げるが……
 
 
7.夜のない日
    (Der Tag Ohne Abend)
     ……ジョルジュ・デュルヴァルは自分を侮辱した男の顔を殴って決闘と相なった。決闘が行われるまでの日々を数学の研究に打ち込むが……
 
 
8.ある兵士との会話
 (Gespräch Mit Einem Soldaten)
    ……バルセロナ。言葉の覚束ないわたしはスペイン語もカタロニア語も使わずに身振りと高い表現力で人と意思疎通を図る兵士とであった。彼は口が聞けなかったが、意気投合してこれまでにないほど思いを伝えあった。しかしその時瀕死の馬が彼の目の前に倒れてきて……
 
 
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「アンチクリストの誕生」です(・∀・)
 
 
かつて物語の魔術師と謳われたレオ・ペルッツの作品集です。ユダヤ系チェコ人でウィーンで活躍した幻想作家です。幻想の冒険と歴史小説を得意としましたが、その幻想は怪奇幻想という人外のそれではなく、人間の数奇、運命の瞞着、運命的な刹那が切り取られ、永遠となる瞬間です。1.2.5.7.8では小さな存在の人間が人知を超えた「何か」ーーー中島敦風に言うならば「我々の中にある、我々よりも賢い、我々の知らない何か」ーーーに出会す瞬間ーーーそれを描いています。1は太宰の「走れメロス」チックでタイトルロールのアンチクリストは意外な正体。
 
 
対する3.4.6はファンタジックですが、人間主体で描かれているのでやはり人間と運命のぶつかり合いです。6は降霊術が本当だったのか、それとも神々の悪戯か……8はまさに言葉と感情がが奪われた瞬間。
 
 
わたしたちが想像し易い分かりやすい幻想では無くいところが気に入りました。ドイツ幻想は英国幻想や日本幻想ともはっきり違っていて大変興味深いです。
 
 
「アンチクリストの誕生」でした(・∀・)/ 
次は……仮にたった今から戦争と国家から解放されたら、この世界はどうなると思いますか?(*^o^*)/