伝統と革新が鬩ぎ合うロンドンでインチキ強壮剤『トーノ・バンゲイ』を売り込む叔父を批判的に見ながらも、ジョージは自らも近代から現代へと忙しない世界で時代の歯車の一つとして生きていく……
◇トーノ・バンゲイ・上◇ -Tono-Bungay-
H・G・ウェルズ 中西信太郎 訳
「世界文化史大系」の著者として有名な文芸批評家ウェルズは,最初この軽妙なユーモア小説によって今世紀初頭の文壇に認められた。インチキ強精剤トーノ・バンゲイを発明して巨万の富を儲ける男を主人公とした物語であるが、19世紀イギリス社会相の解剖と描写の中に科学思想を盛り,文学作品としても傑出している。
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ケントのお屋敷ブレイズオーヴァ家の女中頭の息子であるジョージ・ポンダレヴォーはある事件をきっかけにお屋敷を放逐されて叔父を頼る。その叔父は「トーノ・バンゲイ」なる強壮剤を作り、大儲けを企んだ。ジョージはそれに詐欺めいたものを感じ取る一方で理屈では無い感情の暴走から恋愛と結婚を失敗し、飛行技術へと興味が湧いて来る……
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「トーノ・バンゲイ・上」です(・∀・)
ウェルズはSF作家でもありますが、人間学的な予言者でもあります。今回の予言はつまり!大々的な広告産業と大衆向け製薬産業です。読んでいてこれ、21世紀かよ! とちょっと思いました。今はコロナコロナコロナワクチンが切実に欲しい!!← は置いておいて。その薬が色々な秘められた、
しかし既存している薬を混ぜた根拠無きインチキであってもうまく大衆に売り込んでいるので絶賛大儲け。20世紀は広告の時代ですねぇ。……そして独裁者の時代ですねぇ……世の中の独裁者も広告を作ろうとしたら多分凄い儲けただろうな……
また本書の前半は変わりゆく伝統の英国社会も描いています。ブレイズオーヴァ家のような使用人や老婦人たちは恐らく当時何百人といたのでしょう。ウェルズはそこそこ長生きしていて伝統が揺らぎ、新しい考えが台頭してくる瞬間を目撃しています。若き日の後悔と懐古だらけの回想録と混ざり合って深みのある小説になっています。こういう生の時代を描写出来るのは当時の人間だけです。悔しい。
このトーノ・バンゲイと主人公ジョージがどうなるかは、下巻へお楽しみ、お楽しみ〜!(*^o^*)/←