平野啓一郎 No.9◇決壊・上◇ | 星よりも大きく、星よりも多くの本を収納する本棚

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9年間の海外古典ミステリ読破に終止符を打ちました。

これからは国内外の多々ジャンルに飛び込みます。




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それぞれの秘密が決壊として現れる時、惨劇が襲い掛かる!!

 
 

 
◇決壊・上◇
平野啓一郎
 
 
2002年10月。全国で次々と犯行声明付きのバラバラ遺体が発見された。被害者は平凡な家庭を営む会社員沢野良介。事件当夜、良介はエリート公務員である兄・崇と大阪で会っていたはずだったがーーー。絶望的な事件を描いて読む者に〈幸福〉と〈哀しみ〉の意味を問う衝撃作。
 
 
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殺人者は電子の闇に沈むーーー。
 
 
平凡だが幸せな家庭を営む沢野良介は帰省をきっかけに家族の違和感に直面し、疑念が生まれる。妻の佳江はネットの匿名日記の〈すぅ〉が良介だと気がつき、その二面性と義兄の崇の疑念に愕然とし、崇に相談をする。崇は大阪でそのことを話し合う手筈を整えた……
一方いじめに悩む中学生北崎はネットでの投稿を通して殺人を夢想し、それを他人につけ込まれる。
 
 
9.11以後の日本に再び悪魔的な殺人事件が襲いかかる。全国各地で犯行声明付きのバラバラ遺体が見つかり、その遺体の素性は沢野良介だったーーー………
 
 
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「決壊・上」です(・∀・)
 
 
前回の「生き返った男」とは真反対の死んでしまった男」をめぐるミステリ風味の純文学です。もう1人の中心人物は始終ドストエフスキーみたいな(1作しか読んだことないけど)政治的・哲学的な思考を繰り返す兄の沢野崇でしょう。しかも彼は最後に良介と会っていたと疑われている男です。……下巻は無実(の筈)の崇の闘いになるのでしょうか。
 
 
犯行声明付きの猟奇的殺人といえば、思い当たる人はいっぱいいますが、言わずもがなでしたね。最後の犯行声明文公表の是非はなかなか勉強になりました。内情ってこうなっているんだ……こういう文を書く人はある意味別次元の正常なんですよね。わたしたちからは異常に見ても別次元ーーーいや「分人」という言葉を変えて「分次元」にしますかーーーで見るとある種の「正常」で。とにかく「正常」であることには避けられない。
 
 
「分人」で思い出しましたが、この作品でも「分人」という名前の二面性が登場します。良介は平凡だが幸せな家庭を営む一方で兄・崇に対する劣等感から匿名日記に書き込み、崇は崇で不倫の恋がある。一方事件に関わっている可能性が高い中学生の北崎は虐められる一方で卑猥な写真をばら撒き、殺人を夢想するという陰湿な凶悪性を持っている。世界が混沌とし、人間も混沌とし、ある一方を曝け出すことは許されずに抑圧され、それに抵抗しようとさらに歪みを生む。
 
 
平野啓一郎のことですから犯人が分かっても「本当の解決」にはならないでしょう。下巻で「真実」が明かされることを祈りつつ更にページを進めて行きましょう(*^o^*)/