平野啓一郎 No.8.5◇空白を満たしなさい・下◇ | 星よりも大きく、星よりも多くの本を収納する本棚

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9年間の海外古典ミステリ読破に終止符を打ちました。

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遂に掴んだ真相、幾つもある「個人」。幸福に影を差すのは世界を正常に戻そうとする『消滅』だった……その中で徹生は言う。「空白を満たしなさい」と。

 
 

 
◇空白を満たしなさい・下◇
平野啓一郎
 
 
全国で生き返る「復生者」たち。その集会に参加した徹生は、自らの死についての衝撃的な真相を知る。すべての謎が解き明かされ、ようやく家族に訪れた幸福。しかし、彼にはやり残したことがあった……。生と死の狭間で「自分とは何か?」という根源的な問いを追究し、「分人」という思想が結実する感動長編。 
 
 
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自殺。「複生者」が集まる集会でまたも佐伯と邂逅した徹生が掴んだ真実は「自殺」だった。しかし佐伯は徹生を混乱させるような台詞を遺して自殺を図る。
 
 
海で溺死した木下、人を助けて死んだポーランド人のラデックらと出会った徹生はラデックの紹介でNPO法人〈ふろっぐ〉に赴き、代表の池端からゴッホを通して対人関係ごとの自分ーーー「分人」という考えを聞かされる。幾つものの徹生、しかしいずれも本物の徹生。そして自殺も、その「分人」の存在とある「分人」をその他の「分人」が否定したことによって引き起こされたことを知る。
 
 
真相が明かされ、璃久も昔のように懐いてきた。また生きられるかもしれないーーーと思った徹生の前に今度は木下やラデックらが行方不明になって消えてしまうという「世界のエラー修正」が姿を見せる。
 
 
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「空白を満たしなさい・下」です(・∀・)
 
 
死の真相明かされり。この鍵になるのが本作の、そして平野啓一郎ワールドのキーワードにもなり得る「分人」です。思考ががらりと変わるわけでは無いから人格でも無く、どれも本物で……仮面の付け外しに近いと思ったのですが、それともやはり違うのかな。仮面だと人格みたいにがらりと変わっちゃうし。
 
 
一方の自分を他方の自分が否定する。という経験はおそらく誰もがしていると思ってます。私にもあります。苦しいのはそれが他者でも偽物でもなく、紛れもなく私自身だからですよね。
ラデックの会話はどれも印象的でしたが特に自殺したからと言ってその人が本質に自殺する人間だとは言えないという考えに昨今の世界は救われるような気がしました。死姿がその人間の締めくくりとして象徴されたら、その人の生き様が誤解されてしまうから。
 
 
最後は唐突に現れた「複生者」が次々と消える、というよりも元の場所に還ってしまう。次は徹生の番かもしれない、いや二度と来ないかもしれないという希望的観測で終わりますが、最後の一文こそが徹生の「その時」だと思わずにはいられない……
最後まで蘇りの理由が明かされることはありません。平野啓一郎に限ってはそれで良いと考えます。それどころか理由づけしたいならアイデアを他の人に渡した方がマシだと思う自分もいるし。平野啓一郎の文章は大衆文学には似合わないもの。
 
 
「空白を満たしなさい・下」でした(・∀・)/
次こそ通常運転、シムノンです(*^o^*)/